● カウンセラーの胸の痛み
かなり前になりますが、毎年夏の終わり頃になると、音楽家、舞踊家、医者、カウン セラーなど、様々なジャンルの人達が集まってボディートーク・ロンドンセミ ナーを開いていました。増田先生のボディートーク流英語(時々は大阪弁も 交えて)でのセミナーは大好評で、いつも会場には笑い声が絶えませんでした。
セミナーの終わりに、そっと私の傍に来て「この頃胸の辺りが苦しく、何をしても気持ちが晴れないのです…」と、暗い声でつぶやかれた女性は、ロンドンでも有名なカウンセラーと評判の方でした。そのもの静かで理知的な顔立ちのEさんは、「家へ帰り一人になると、もうグッタリで何だか悲しくなってくるのです」との事。
「それは大変ですね。沢山の方々の悩みを、相手の身になって立て続けに聞いていかれるお仕事ですから、そのつど相手の方の苦しい息が、あなたにも伝わってきているのかもしれませんね。気づかない間にあなたの息も詰まってきているのではないでしょうか。そんな方におすすめしている方法がありま す。一度試みてみられますか?」と尋ねながら、《ボディートークあった かハンド》の説明をさせていただきました。
● あったかハンドの方法
① 自分の両手に「ハァー」と暖かい息をかけながら、しっかりこすり合わせ暖めていきます。
② 暖かくなった両手を、胸椎3番の胸側に重ねて、そっと置きます。
③ 手のぬくもりが体の奥に染み渡っていくイメージをえがきます。
④ そして「悲しかったねぇ~」とか「言いたいことが言えなかったねぇ~」などと、自分に優しく声をかけながら 語りかけます。
具体的に説明をしながら「このように、ふんわりとそ~っと置いて下さいね」 と、まず、私の手を彼女の胸に置かせていただきました、するとEさんの口から「フーッ」とため息が漏れ、それと同時に全身を緩み始め、やわらかくなってきたのです。
「このまましばらく暖め続けてみましょうね。一緒に 『悲しかったねぇ、辛かったねぇ、よく頑張ったねぇ』と声に出しておっし やって下さい」と言っているうちに、今度は彼女の目から大粒の涙が流れてきたのです。「不思議ですね。泣くつもりなど全くなかったのに、こんなに涙が出てくるなんて」と、自分の体の反応に驚かれ、ボディートークの体ほぐしの仕組みに感動されたのです。
手をあて、もう一度《あったかハンド》をされていると、涙がとめどなく次から次へ溢れてこられていました。そして、帰り際にはすっかり別人のようにスッキリされ、ほほえみを 浮かべたEさんになっていらっしゃいました。
● 赤ちゃん育て一年生ママの心と体
自分では何ともないと思っていても、E さんのように《あったかハンド》をやってみると、胸のところに異和感や痛みを感じてきて、「エーッ!どうして 涙が出てくるの??」と驚かれる人は、出産後間もない赤ちゃん育て中のお母さんに特に多いのです。
10ヶ月の妊娠期や生死をかけての出産と、心と体の大変化をようやく通過したのに、ホッとする間もなく、疲れを回復しないままに授乳、家事が待っている。そんな赤ちゃんを育てる一年生ママの生活は苛酷です。
昔から母親になる人は誰もが通る当たり前の道とはいえ、あまりの辛さ、 痛さに「泣きたいのは私の方よ!」と叫びたい時がいっぱいあるはずです。で もその辛さを誰にも言えずに一人じっと我慢し、毎日を過ごしている間にママは強くなって(?)いくのですが・・・
その強さは、悲しみや苦しみをなるべく自分では感じないように内に押し込め、《心や体に鍵をかけている》状態でもあるのです。ところがそれが暖かくホッとする手のぬくもりと自分の心をそのままに分ってくれる暖かい言葉(息 づかい)に包まれると、閉じていた鍵が開いて日頃押し込めていた感情がドッ と泉のように溢れてきて、ため息や涙が出てくるのです。
すると辛い状況 は変わらなくても心と体も楽になり、元気さが戻ってくるのです。こうして 《心と体の鍵をほどき息を楽にすること》は、ママの心や体のためでなく赤ち やんのためにもとても大切なことです。ガマンが限度を超えてくると、《マタ ニティ・ブルー》が重い症状となって出てきたり、時には《赤ちゃん虐待》へ と繋がっていくこともあるからです。(次回につづく)
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