ストローチュッチュッがお気に入り K君は3才になったピッカピカの保育園の一年生。朝になると「行かな い!」とむずがるものの、お母さんと保育園に行ってしまえばホイッと仲間の中に入って一日を過ごせる男の子です。
通園し始めて2週間ぐらいして高熱になり、インフルエンザかな?と心配しましたが、次の日にはスーッと熱も下がり、お母さんは安心しました。けれど 熱を出した数日前から、お腹の調子が思わしくなく食欲も落ちていたので、朝食前とおやすみの前にあったかい牛乳を飲ませることにしました。
するとK君は、牛乳をまるでおっぱいを飲む時のような表情で、ストローで チュッチュッと吸い始めました。このストローチュッチュッがどうもお気に入りになった様子です。熱が下がった後もこのストロータイムは続いています。 「今までこんな事はなかったのですが、何故なんでしょう?」と、お母さんか ら電話での相談を受けました。
● 僕が開けたかったのに…
K君は生まれた時から、ボディートーク・マタニティ子育て教室に通ってい た、とてもプライドの高い男の子でした。ある時ペットボトルの蓋を開けよう としましたが、なかなかうまく開けることができません。傍らでそれを見てい たボディートーク指導者が、気を利かせて「ハイ!どうぞ」とその蓋を開け たとたん、突然「ワーッ!」と大声で泣き出しました。
「エッ!?どうしたの?」と大人達はびっくり。その頃のK君にとっては、 ペットボトルの蓋開けは、まだ新しい課題。それでもどうにか自分で工夫して やってみようと、一生懸命頑張っていたのです。大人にとっては、早く蓋を開けてお茶を飲ませてあげようという心づかいでやった事なのですが、K君は自分で蓋を開けて、自分で飲みたかったのです。
なのに蓋をとりあげられて、自分の出番なくして蓋はすでに開いてしまったのですから、悔しくて泣き出して しまったのです。
何でも大人と同じようにできるようになりたい。失敗したり、 できないところは見られたくない。《自分の力で、自分一人でできた》という喜びと誇りが、K君の次への向上心へと繋がっていくのです。
公園でスベリ台を見つけた時、すぐには近寄らず、遠くからお兄ちゃん達の滑るのをジーっと見ていて、誰もいなくなるとソーッと一人で確かめながら何回も滑る練習をする、慎重派タイプのK君です。
あれもこれも新しいことばかり、そんなK君をゆっくりと穏やかに見守ってくれていたお母さんとの生活から 一変して、新しい仲間との保育園の一日。赤ちゃんもいれば、年上のお姉ちゃ ん、お兄ちゃんもいっぱい。食事の時も、哺乳瓶からミルクを飲む赤ちゃんもいれば、マグカップからグイグイお水を飲む年上の子達もいます。見ること、 することが、次から次へと新しいことだらけで、K君の頭も心も体も大忙しです。
● 幼児がえり・赤ちゃんがえりは、大切な反応
新学期が始まる4月は、個人差はありますが 、子どもも大人も少なからず、K君と同じように環境の変化が大きな時期なのです。特に生命が繊細な幼い子どもの頃は、自分の体や心に大きな変化があったり、不調が起こると、内息になりがちになります。そしていろんな形で《幼児 がえり、赤ちゃんがえり》になることがあります。
外や内の大きな変化を受け止め、それに適 応していこうとするエネルギーがより必要となり、《内なるエネルギーを充実させていこうとする営み》が《幼児がえりや赤ちゃんがえり》になって表れているのです。
電池で動くおもちゃを考えてみると、よく分かります。動かせば動かすほど エネルギーが減っていくので、充電が必要になってくるというシステムです。 赤ちゃんが生きていくためのエネルギーは《おっぱい》ですが、それは単に栄養の補給だけでなく、お母さんのふんわりとした皮膚とのふれあい、匂い、優しい眼差し、あったかい息づかいなどを含めての、まさに心と体のオアシスで もあるのです。
K君がミズカラ選んだストローでチュッチュッという行為は、一気にコップ から飲むのと違って、おっぱいを吸っていた時の唇や舌の使い方に近いのです。 K君の体は無意識の中にそれを知っていて、自分の心と体のオアシスへ行って、 新しい保育園生活に必要なエネルギーを補給しようとしていた訳です。
また、 朝起きたばかりの時や、夜、少し眠くなってきた時は副交感神経の働きが優位になり、昼間の緊張が緩んでいるので、《赤ちゃんのような心と体》になりやすくなる、オアシスタイムでもあったのです。自分でオアシスを探し当てたK 君に、「いいぞK君!」と何だか誉めてあげたくなりました。
● 一緒にストロータイムを楽しもう
「K君は、保育園や家の外ではストローでチュッチュッはしないでしょう? お家の中だけ、しかもお母さんと一緒の時だけそうするのではありません か?」と尋ねると、「ハイ、そうです」との答え。「やっぱり。K君らしい ですね」と、思わず微笑んでしまいました。他の人の前では、いつもカッコイ イ、立派な男の子でいたいK君なのです。
お母さんと二人で、K君の成長ぶりを喜び合いながら、「できれば、お母さんもK君と一緒にストローで飲んだらどうでしょう?恋人のように見つめ合いながら、『ストローで飲むと何だか美味しいね』って言ってみるのもいいか も?」
ちょっとシャイな表情でニッコリするK君の笑顔が浮かんできそうです。 “さり気なく、子どもの心に楽しみながら寄り添っていく” お母さんに とっても、きっと素敵なひとときになれることでしょう。
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