失恋であれ、家族の死であれ、他の人のことであれ 悲しみのイメージが脳裡にとび込んでくると、悲しみの感情は意識の中で漂い始めます。
水面上を意識の世界、水面下を無意識の世界とします と、悲しみのボールが水面上に浮かんでいる時は、人は感情を露にします。この時点では悲しみから生じる体のしこりもほぐしやすいのですが、悲しみが更に重くなっ て、ボールが水面下へ沈み始めると大変です
悲しみに耐えかねて、自ら体を固め、ゆがめることで悲しみのボールを意識の世界へ上げないようにし始めるからです。この状況をボディートークでは「体に鍵をかける」と言っています。
そしてしっかりと水面下に押さえ込ま れた悲しみのボールが、自らもじっとして動かなくなることを「心に鍵をかける」と言っています。
鍵は自らがかけるのです。このことによって悲しみ は一旦忘れ去られるのですが、押さえ込んでいる体の重さ、気の重さだけはしっかりと感じ続けます。暗雲のたちこめたドーンと重い毎日となるのです。
因みにボケも最初は自分から積極的に起こすのです。疎外され尊敬されない自分 を意識するのが辛くて、現実を察知する脳の働きを自らストップしてしまうのです。 そして体に鍵がかかると、今度は戻そうと思っても自分の力では戻すことができなくなってしまうのです。
その意味でボディートークの体ほぐしは、まず「体の鍵」 を開放することから始めます。
五十名ほどの講習会で体ほぐしの説明をした時のことです。「この中で一番体の 固い人をモデルにしますから、しんどい人は挙手をお願いします」と言いますと、 十名ほどが名乗りをあげました。
それで一人づつ「アー」と発声してもらって、そ の中で最も声の詰まっている人に決定しました。五十代の主婦です。
うつ伏せになってもらって背中に触れますと、胸椎3番を中心に肩身がギュッと
詰まっています。家族関係の葛藤を表す胸椎5番にも強いしこりがあって、背骨より右側を固めています。
「家族のことで随分長い間悩み続けましたね。そして私がやらなきゃ 誰が面倒を見るんだってえらく切ない思いの中で気張ってきましたね」と言いながらほぐしていきました。
しばらくしてその人の目から涙がこぼれ始めました。体の鍵がはずれてきたので す。「泣けばいいのですよ、悲しみを押さえ込んではいけませんよ」と私は声をかけました。
そして仙骨に触れた時です。その人は迷いの気持ちをずっと溜め続けてきたので しょう。迷いのしこりが積もり積もって固まった仙骨だと私は直感しましたので、 「あなた、迷いに迷って辛い人生だったね」と言ったのです。
そのとたんに、仙骨がクリッと動いたのです。すると私の指先から私の体の奥にその動きが伝わって、 私の悲しみの感情を揺すぶったのです。思わず私は自分のために泣いてしまいました。自分も泣きながら体ほぐしをするなんて初めての経験です。
体ほぐしは全体で五分ぐらいだったでしょうか。 その人に「立ってみてください」と言いますと、「アレッ、まっすぐに立てる。ずっと腰痛で、今し がたまで前かがみでしか立てなかったのに・・・」 と本人はびっくりの面持ちでスッキリと立っていま う。会場には大きな拍手が起こりました。
体の鍵をはずし、心の鍵をはずして本来の自分に 立ち戻るというのがボディートークの体ほぐしの考え方です。
体の鍵
1 ウケテは仰向けに寝ます。
2 シテは立ったままウケテにまたがり、両手を持ち上げます。
3 ウケテの腕に抵抗のない角度を見つけながら前後左右と、タコの腕のように揺すります。
4 ウケテの「アー」という声が気持ちよく揺れるのを聞きながら、一声終われば両手を静かに下 ろします。
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