「もの言わぬは腹ふくるるわざなり」とは兼好法師の言葉であ る。言いたいことを言わずに我慢していると、本当におなかがふくれてくる感じがする。これは実際、胃や腸が固くなって腹の皮を引っ張るからであって、決して妊婦さんのようにおなかが出 てくる現象をいうのではないが、兼好法師の実感から出た言葉であろう。
人間は大脳が発達しているため、その働きによって感情をコントロールすることができるが、感情を押さえ込むと確実に腹が固くなる。だから逆に、おなかのどの部位が、どのようにしこっているかを調べることで、 どのような感情を押さえ込んでいるかを判断することがで きる。
ボディートーク会員のJさ んは、大阪へ単身赴任している中堅のサラリーマンであるが、ボディートークの定例会の最中におなかが痛いと言いだした。一週間ほど前から右腹にキュッと痛みが走ることがあり、病院で診察してもらったが、特に異常はない、とのことだ。
そこで仰向けに寝てもらっておなかに触れてみると、十二指腸の周りが固くなっている。十二指腸は胃の幽門に続く小腸の始まりの部分だが、そこが痛むのだ。十二指腸にはどのような心の問題が出るのかというと、実はホームシックなのである。私はこのことを教師時代の経験から得ていた。
Jさんにホームシックのしこりだと告げると、「なるほど、そうでしたか」と周りの人達と一緒 になって笑った。早速、本人に「アー」と発声してもらいながら、しこりの部分を揺すった。すると、みるみるうちに固さはとれていって、痛みも無くなった。心の問題が何であるかに気付きながら、 そのしこりをほぐすのがボディートークのコツである。
このように、おなかに表れる感情のしこり を知っておくと、心の問題を解きほぐすのにとても有利になる。
昨年の夏に、子供ミュージカルの合宿を行った。小学一年生から大人まで、およそ百名ほどの団体である。二日目の朝、小学三年のE子ちゃんが練習に入らずに片端でしくしく泣いている。付添いの先生が「ホームシックなのね」と言いながら慰めている。いつまでも泣き止まないので、 休憩時間に私はE子ちゃんの体を調べてみた。
おなかを触ってみると十二指腸の周辺は固くない。ということはホームシックが原因ではないの だ。固くなっているのはおヘソのすぐ下あたりである。ちなみに背中を調べてみると背骨の胸椎九番の横にしこりがある。これらのことから、E子ちゃんは悔しさの感情を押さえ込んでいると判断 した。
しこりをほぐしながら「誰とケンカをしたの?」とE子ちゃんに聞いてみると、重い口をやっと開いてくれた。同室の女の子と些細なことでケンカになり、言い負かされてしまったのだ。体がほぐれ、感情のしこりがとれるとE子ちゃんはケロッとして線習に参加した。
ところで、ホームシックのしこりは家に居ても生じることがある。それは現在の家族関係を拒否する感情である。そして、かつての居心地のいい家庭環境に戻りたい、と切に願っている心の葛藤の表れである。このストレスが嵩じると十二指腸に潰瘍ができるのではないか? 私は医者でなく患者を診ているわけではないが、もし十二指腸潰瘍と感情との因果関係を研究している人があれば、ここのところを是非教えてほしい。
ボディートークで更に言えば、胃の上部を固くしている人 はイライラである。下部にしこりを持つ人はクヨクヨである。 共に我慢のしこりではあるが、イライラとクヨクヨはどのように違うか。
物事が進む可能性があるにもかかわらず、目の前に何らかの障害があって足踏みしている時の焦りの気持ち がイライラである。反対に、物事が進展する可能性がほとんど無くて、諦めざるを得ないと頭ではわかっているものの、 感情としては未だに未練があるという時にクヨクヨの気持ちが起こるのである。
ともあれ感情の動きは如実におなかに表れる。そして胃や腸を固くし、歪ませていても、意外と自覚症状がないものだ。イライラしているな、クヨクヨしているなと感じたら、その場でプルッとふるわせて、おなかをスッキリさせることをお 勧めする。
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