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赤ちゃんとお母さんは一心同体

ボディートークバイオリンのレッスンが始まり「人生で初めてバイオリンを手にした」と言う人が増えてきました。何だかドキドキして、大切にソッと自分の左肩にバイオリンを乗せ、弓を持って、ソッと動かすのですが…、生まれて初めての体験きわめてぎこちない手つきです。それでも美しい音が鳴り出し、体中の細胞にその音色が伝わっていきだすと、「ワァ~!」と叫びたくなるほどの感動が湧き起こります。

その大切にしているバイオリンを、自分以外の人が「私も弾いてみたい。ちょっと弾かせて!」とヒョイと取り上げ、乱暴に弓を動かされると、もう自分の身を切られるようで「そんなに乱暴にしないで!」と、とても悲しくなってしまいます。 私は運転をしないので分からないのですが、きっと車に乗る人も自分の車を勝手に運転されて、同じような思いをされた方もいらっしゃることでしょう。

楽器や車でもそうなのですから、まして 10 ヶ月もお腹の中にいた赤ちゃんとお母さんの絆は、どれほど強く深いものなのかは、今さら言うまでもありません。

R子さんは、妊婦の時からボディートークマタニティ教室に通われ、とても楽な 自然なお産ができたと喜んでいらっしゃいました。先月、生後2ヶ月のA子ちゃんとボディートークマタニティ・子育て教室に一緒に参加されました。「よかったねぇ、 元気な赤ちゃんで。よく頑張ったねぇ」と挨拶しながらR子さんと赤ちゃんの体にさり気なく触れると、「エッ?」と驚くほど体が固いのです。出産前は自分でせっせと楽しみながら自然体運動や体ほぐしをされて、妊婦さんとしては理想的なやわらかな心と体だったR子さんです。でも一応外から見ると、母乳もよく出て、母子ともに元気そうなのですが….。

講座の中で、赤ちゃんがおっぱいを飲んでスヤスヤと眠ってしまったので、今が チャンスとR子さんの体ほぐしを始めました。背中は切なさのしこりの胸椎3.4 番、気遣いの7番、苛立ち、悔しさの8・9番、叱咤激励の10.11.12番と 見事な固めぶりです。どうも満点ママを目指している様子。出産後は実家で過ごしているのですが、産後、充分に眠った日はほとんど無いとのことです。「赤ちゃんが心配で、わずかな気配でも気になって眠れないのです」と。

こういう時は、私は お母さんを赤ちゃんのように抱くイメージで体ほぐしをしていきます。背中のしこりを手のひらで溶かすように揺すりながら「よく頑張ったねえ」「でも、ずいぶん辛かったみたいよ」「ひょっとしたら、他の人がいつも赤ちゃんを抱っこしてい て、あなたが充分抱っこできていないんじゃないかな?」 黙って頷いたR子さんの 目に涙が浮かんできました。

R子さんのお母さんは子育てのベテランなので、ぎこちないR子さんの様子を見 てじれったくて、赤ちゃんの世話に手を出しすぎていらっしゃるのかも知れません。R子さんは、思いは山ほどあるのに赤ちゃんをうまくお世話できない自分へ の怒りや、悔しさもいっぱいあるようです。「赤ちゃんも他の人に抱っこされる度に緊張していて、体が固くなっているみたいよ」「あなたの赤ちゃんなんだから、 あなたがしっかり抱いていいのよ」心や体がほぐれていったのでしょう、R子さんの目から涙が溢れ出てきました。

赤ちゃんが可愛いので、親戚や友人達が「かわいい赤ちゃんねぇ」と次 から次へ抱っこしてまわり、それをイヤと言えずガマンしながら、複雑な気持ちで 黙ってみているしかなかったそうです。特に内息気味の性格だったので、余計に自分の気持ちを誰にも言えずに悲しい思いで2ヶ月間過ごしていたのですね。

この講 座に一緒に参加していた子育てベテランの50 代のボディートーク指導者たちも 「そうねぇ。私もきっと同じような目に合わせていたような気がする…」と肩をすくめ、反省しきりでした。

たとえぎこちない新米ママでも、赤ちゃんにとって、お母さんの胸のあたたかさ、やわらかさ、おっぱいの匂い、息づかいなどは、かけがえのないものなのです。 それは、ずっと 10ヶ月一緒に慣れ親しんできた世界なんですもの。また生後1、2 ヶ月の赤ちゃんの視覚はまだ充分でなく、人の顔の形などもぼんやりとしか感じられていません。だからこそ余計に、匂い(嗅覚)や音(聴覚)、タッチの仕方(触覚)に敏感なのです。 (次号につづく)




赤ちゃんの心はどうしてわかるの?

新幹線に乗っていると、どこからか赤ちゃんの泣く声が聞こえてきます。「あぁ~あれは暑いと言ってるね。ちょっと洋服、着せすぎじゃない?」「あぁ~ あれは怒ってるね」とか、増田先生はすぐに赤ちゃんのことを声で聞き分けられます。ボディートークを習い始めた最初の頃は、どうしてそんなことが声で分かる の?と、不思議でたまりませんでした。

私がボディートークに出会って 20 年近くになりますが、気付くといつの間にか、私も赤ちゃんの声の中に心を聞くこ とができるようになっていました。「声は体と心をつなぐかけ橋」であること。声 で、息で、相手の心が分かること。これは、ボディートークの大きな魅力の一つで す。

今回は、赤ちゃんの心を声で分かるようになるコツについて、お話してみまし ょう。
待ちに待った、初めての赤ちゃん。でも、生まれてみると泣いてばかりで「あぁ、 どうしたらいいの? 何を言ってるのか分からない~」と困っている、新米ママとパパ大丈夫ですよ。最初は誰もがみんなそうだったのですから・・・。

どうしてあげたらいいのかしら?「おっぱい?」「おしっこ?」と、一つ一つ試しながら、 少しずつ赤ちゃんのことが分かっていくのです。


【赤ちゃんの心を知るレッスン 1】
ちょっと余裕が出来たら、赤ちゃんが泣き出した時、なるべく赤ちゃんと 同じ声で、同じ表情をして、同じ動きをしながら、一緒に泣いてみましょう。なる べくそっくりになるように。声のレベルも同じにしてみて下さいね。

そうやって何度も赤ちゃんの真似っこを練習しているうちに、「あぁ、この声は、お腹が空いた 時の声だな」「あぁ、この声は怒っている時の声だな」と、分かってくるようにな ってきますよ。赤ちゃんの《心》を知っていく方法が身についてくると、これからの子育ての中でとても役立つことが多いのです。

つまり、《子どもの心を通して、 分かってあげられる、パパ・ママ》になれるのです。素敵だと思いませんか?


【赤ちゃんの心を知るレッスン 2】
赤ちゃんの心を知るレッスンを、もう少しレベルアップしていくには

まず、ボディートークの一人ほぐし、自然体運動、二人ほぐしで、しこりやゆがみをせっせと取り除いていきましょう。そして、素直でクセのない、赤ちゃんのような体づ くりを目指しましょう。(粘土で何かを作る時、まずやわらかくして、何の形にでもなれるようにするでしょ、あれも同じことです)


【赤ちゃんの心を知るレッスン3】
では、いよいよ、自分の体を変え、《悲しみの感性と声》を作っていくレッスン です。 (※ミュージカルの、悲しみの場面の練習にも有効です)

1  自分の両手を、両脇下のところへ置きます。

2  その両手を、両脇から胸の中心(胸椎3,4番のところ)に向かって、グッ、
グッ、グッと少しずつ締めていきます。

3  胸が締め付けられて苦しくなり息が詰まってきます。

4  グッと押すごとに、「ア、ア、ア、ア」と声を出してみましょう。 .

5  今度は、1~4のスピードを少しあげて、一気に押し続けながら、泣き声に
変えていってみて下さい。

6  その動きをしながら、「悲しい、悲しい」と 思い、悲しみのイメージを加えていくと、泣く体になり、声になり、今度は切なさや悲しみが、内から湧いてくるようになります。

どうですか、涙が出て泣けましたか?この時の泣き声が《悲しみの声》です。
ところが、赤ちゃんは、怒っている時にも、お腹が空いている時にも泣きますね。 他にも自分の欲求が満たされないと、それを泣くことで相手に伝えようとします 。では怒っている時やお腹が空いた時の体はどうなっているのでしょうね。

関心のある方は是非、『ボディートーク入門』(創元社)の「心の働きは体に正確に表れる」の章を参考に、色々と練習をしてみて下さい。
実は私もそうやって、赤ちゃんとお話してみたいと強く願い、その声(息)と体の在り方に感動し関心を持ち、ただひたすら、せっせと練習し続けたのです。 するといつの間にか、赤ちゃんの声と心が分かるようになったのです。


最後に、赤ちゃんは体を楽にしようとして泣くこともあります。例えば、眠る前 に泣くことで、体を温め、ほぐし、眠りやすい体にしているのです。ですから、新 米ママも時々は、「もう、分からないよ~ 出来ないよ~」と、オーバーワークになった自分の心や体のために、赤ちゃんのように泣いてみてはいかがでしょう。そ して、泣きながら「よく頑張っているね」と、自分を誉めてあげて下さい。息がほぐれ、子育てがきっと楽になっていくと思いますよ。




生理痛を解消

●「お尻ゆすり」の効用

皆さんは、小学生の時どんな性教育を受けられましたか?そんなものは受けた事 は無かった、という時代の方もいらっしゃいますが、今の小学校では1年生の頃から教育プログラムに組まれ、コンドームの使い方まで教えられるところもある、という時代になってきました。

私も30年近く、女子短大で女学生達に体育、運動生理学、保育などの授業の中で女性の体、心の問題に触れてきました。しかし、ボディートークに出会うまでは、生命のしくみについて述べることはあっても、生理の時の不調や違和感をどう解消すればよいかについては、何ひとつ教えることはなかったのです。

生理の時は、不快感や痛みがあるのは当然で、ほとんどの人は諦め、どうしようもない時は「痛くなったら、すぐセデス!!」のコマーシャル どおりの薬に頼る解決法が当たり前になっていました。


でもボディートークを知ってからは、授業の実技テストは「ボディートークの体 ほぐし完全マスター」となりましたので、学生達はひたすら体ほぐしに励みました。

この授業が終わる時 (15 時間受講)には、“生理痛のない体になろう”が、一つの スローガンとなり毎月、生理痛でお腹をかかえこみながら保健室に倒れこむ学生に「騙されたと思って、 ひたすら体ほぐしやお尻ゆすりをやってごらん、きっと楽になるから」と言い続けました。その成果は見事に表れ、「先生、いつの間にか生理痛はなくなってます。」と嬉しい報告になっていきました。


もちろん「お尻ゆすり」は痛みのある時に、即効効果もあります。そして日頃か ら一人ほぐしや二人ほぐしをしていくと、体のしこりやゆがみも取れます。そうすると副交感神経が優位になって、生理は心と体の掃除をする方向に体のリズムが切り替わるのです。生理であっても痛みや不快感のない体になっていくのです。そう生理のときは体の大掃除をしていくチャンスなのです。


●自分の体のエコづくり

今、エコブームですが、月1回やってくる生理の時は自然の力の働きで内感能力 が高くなる絶好の時、まさに体のエコづくりのチャンスです。成長の早い女の子は、 小学校3,4年生頃に初潮がきます。その頃から自分の体の不調を自分の力で(自然の力を多いに働かせ) 解消する方法を発見し身につけることは、とても大切なことです。

それはまた積極的な「すこやかな母体づくり」ともなるでしょう。丁寧に自分の心と体の声に耳を傾け、あたたかく自分をいたわるその営みはやがて、すこやかな妊娠、出産につながっていく道であることを、女の子も男の子も体ほぐしの実践の中で知っていって欲しいのです。

痛み止めの薬にサヨナラして、まずお尻ゆすり。 そういう姿勢が《生命を大切にする教育》のベースになっていって欲しいと思っています。

※生理痛の原因には色々ありますので、ひどい場合は医者の診断を受けられることをお勧めします。


【一人で行なうお尻ほぐし】

1 お尻チェック

自分の右と左のお尻の柔らかさをチェックしてみて下さ い。左右の柔らかさが異なると腰骨や仙骨のゆがみが生じています。まず、自分の手で「ア~」と発声をしながら、つきたてのお餅のようなお尻になるよう、ほぐしていきましょう。

2 お尻歩き

足を伸ばして座ってください。右、左 のお尻を床から浮かして「ホッホッホッ」と発声し ながら、お尻歩きをします.(前後、左右にも気楽に歩きます)

3 うつ伏せお尻ゆすり

うつ伏せ寝姿勢で、両脚を少し開き、お腹やお尻の中を水の袋のようにした” イメージで、アーと発声しながら、ユラユラと気持ちよく揺らしましょう。


@仙骨のまりつき

仰向けに寝て、両膝を立てます。お尻の下に両手を敷き、「ホ ッホッホッホッ」と軽く発声しながら、お尻を物のように上下に動かします。両手の上にそのまま気持ちよく「アー」と発声しながら揺らす動きも効果的です。

5 両膝倒し

仰向けに寝て両膝を立て、両足をそろえたまま右、左、好きな方向 から横へ「バターン」と倒し、次に「キュッ」と言いながら元へ戻します。同じ方 向を数回繰り返します、次に、今度は反対方向に同じ動作を繰り返します。痛い時は痛くない方を多く行います。また倒す方にバスタオルなどを置いて、倒れる角度を浅くするなどの工夫をしてみて下さい。


【二人で行なうお尻ゆすり】
うつ伏せに寝た人のお尻を、右、左と、交互に揺すりながら、やわらかくほぐし ます。やわらかくなったら、お尻の両サイドに、そっと両手を添え、相手のお腹やお尻の中が水の袋とイメージして、中身がよ~く動くよう揺すります。「アー」と発声します。




あったかいお正月を迎えましょう! ≪かさこじぞう≫

●シーッ しずかに
赤ちゃんが眠っている時、よく言う言葉「シーッ、しずかに」このシーッ という言い方で『しんしんしんしんしんしんしんしん ゆきふりつもる』を 読んでみましょう。目を閉じてこの詩を繰り返し聞いていると、まるで自分が 降り積もる雪の中に包まれていくような、そんな感覚になっていきます。
この感性で「かさこじぞう」を読んでみたい。そして話の中にネズミさんも登場させて欲しいという願いが叶って、増田 明先生脚色の『かさこじぞう』 が出来上がりました。その一節をご紹介いたしましょう。

●せめてお正月のお供えのもちこだけでも買えんかの~
‟すげで作ったカサを5つ持って売りに行けばもちこ買えんかの”

●物売りの声が響く歳の瀬
「ええ、まつはいらんか。 おかさざりのまつはいらんか」 「つきたてのオモチだよ~。モチモチやわらかくておいしいよ」 「タコ、タコ、よくあがるタコ~!天まで届くタコ、タコ、タコ~!」 大晦日の町は、門松やお餅や凧を売り歩く声が重なり、にぎやかでお正月を迎える喜びがあふれています。でも物売りに慣れないじいさまの声では、カサは売れそうにありません。

●雪の中をとぼとぼ歩くじいさま
「しん しん しん しん  ・・・」日が暮れ始め、雪も降ってきました。売れなかったカサを背負って、とぼとぼ歩くじいさまの姿がいっそう淋く映ります。

●冷たいおじぞうさまにカサをかぶせるじいさま
ヒューヒューと吹雪の中で冷たくなってしまったおじぞうさま。その六人のじぞうさま一人一人に、ふり積もった雪をかき落とし、頭や背中をなでながら 「お~お~さぞ冷たかったろうのう」と、赤子を腕に抱くような思いで声をかけ、どうにかして暖かさをあげたいとひたすら願うじいさま。その息の暖かさと手のぬくもりが、冷たい石のおじぞうさまの心と体に染み渡っていきます。

●何もないけれど、あったかい囲炉裏の火と

あったかいばあさまの言葉

もちっこ無しの正月だけれども、良い事をさせていただいたと、共に喜びを分かち合う暖かい心たっぷりのじいさまとばあさまの夫婦の姿。
ほんのり嬉しい餅つきの真似ごと。

♪こめのもちっこ♪ こめのもちっこ♪こめのもちっこ♪
ひとうすばったら♪ ひとうすばったら♪ ひとうす ばったら ♪あわのもちっこ♪あわのもちっこ ♪あわのもちっこ ♪ひとうすばったら♪ひとうす ばったら♪ひとうすばったら♪ ネズミも一緒に歌います。(増田先生が子どもでもすぐに歌えるメロディー に作曲されています)

●真夜中に聞こえてきたのは?

真夜中に、「じょいやさ じょいやさ じょいやさ じょいやさ」と、遠~く に聞こえる声。
かさこかぶせた かさこかぶせた かさこかぶせた じさまのうちはどこだ♪ するとネズミさんがいち早くその声を聞きつけて、
ココダ ココダ ココダっちゅうの♪ 大喜びでおじぞうさまを迎えに行きます。

●いっぱいの贈り物を積んだソリは重いよ、降ろしたソリは軽いよ。
「ズッサン ズッサン ズッサン・・・」と、おじぞうさまからの贈り物。米の俵、ゴンボや門松など、いっぱいの荷物を降ろし、おじぞうさまのソリは軽くなって、じょいやさ じょいやさと、かけ声軽く、遠くへ 消えていきます。

●じいさまもばあさまも、ねずみさんも
よいお正月を迎えることができました、とみんなでおじぞうさまに心から感謝しながら、おじぞうさまの歌、もちつきの歌を歌いながら、お正月さまを祝いました。

●貧しい時代にあった心の豊かさ
この『かさこじぞう』は、数年前の8月、熊本のボディートークマタニティ・子 育て全国大会、10 月の神戸光月の舞の会、そして 11 月の大阪の特別セミナー で、衣装をつけ、即興で参加者のみなさんが演じられました。短時間での作品作りで完成された形ではありませんでしたが、それでも40年も50年も前、 日本中の人が食べる物も充分なく、貧しくてひとつの物を分け合って暮らしていた頃にあった、心の暖かさと豊かさを思い出すことができました。

●おじぞうさま役になってみると・・・
この『かさこじぞう』の良さを知るには、一度おじぞうさま役になってみら れることをオススメします。私もヒューヒューと吹き叫ぶ吹雪の中で冷たくなって、じっと吹きっさらしの野原に立っているおじぞうさま役で立たせてもらいました。

そして、じいさまの暖かい息のセリフで声をかけてもらい、暖かくやわらかい手のぬくもりで体を触れてもらうと、「エ~ッ?この感覚は何?」 と不思議なほどに体中がホカホカになっていったのです。本物の暖かい息に包まれると、冷たく、固く、石のようになった心も体も解け、動かぬ心も体も動き出すんだなぁという実感が全身から湧いてきたのです。

そして更に感じたこ とは、外からは見えないけれど石の心、体にも、必ず内には暖かく感じるものを誰もが持っているにちがいないと言うことでした。
この『かさこじぞう』は、年老いていくことの美学や本当の心の豊かさとは何か。また、自然の中に生きる人のあり方や生命を見守り続けていてくれるものへの感謝などを教えてくれる、ステキなお話ですね。

子ども達に是非、語り伝えていけるといいなぁと思います。ちょっと今年は悲しかったこと、苦しか ったことが多かったなと思う人は、このお話を声に出して読んでみて下さい。 きっとおじぞうさまが、あったかいお正月さんをあなたに運んで来て下さると思いますよ。




心がしみていく暖かい息

●ただいま~ピョンちゃん

暖かな息、穏やかな声は、私達に安らぎを与えてくれます。「ただいま~」 と言うと「お帰りなさ~い」と迎えてくれる。その声に何だかホッとして一日 の疲れが取れていく感じがしますね。

幼い頃からそういう環境の中で育ってきた私は、大学生になり一人下宿を始めた時、誰もいない真っ暗なアパートに帰 るのが淋しくて、あることを思いつきました。玄関に小さな椅子を置き、そこに可愛いウサギのぬいぐるみを座らせ、玄関の灯りはつけたままにして出かけ ることにしたのです。

帰ってきてドアを開けて、ウサちゃんに「ただいま、ピ ョンちゃん」と声をかけます。その声が部屋中に響いて、それまでの冷んやりとした空気がふんわり暖かくなっていくようでした。

●「クソババ!」と叫ぶH君

暖かな息が漂っている家で育つ子どもは、すこやかに成長していきますよ」と増田先生がよく言っていらっしゃいますが、こんな話がありました。小学1年生のH君は、おばあちゃんが「お帰りなさい」と声をかけると「クソバ バ!」と大声で叫びます。

そしてランドセルを投げ捨て、着ていた服もソック スも一気に脱ぎ、天井に放りあげ、3才年下の弟にケンカをしかけて暴れ まわるという毎日でした。けれど学校ではいたって優等生です。彼のあまりの激しさに「どうにかならないんでしょうか?私にばっかり暴言を吐くんですよ」と相談されました。

彼のお母さんは、昼間は外でお仕事。子どものしつけにはかなり厳しい方だとか。「いいですねぇ~、元気が良くて。おばあちゃん には甘えていれるから、そういう行動が出来るんですよ」と私はニコニコしな がら答えて、彼の心の在り方を説明しました。

●心にも便秘があります。

便秘になると苦しいものです。大人でも家の外で緊張が続くと、なかなかウンコが出にくくなりますね。でも家に帰るとウンコがようやく出た。こんな経験は誰しもお持ちのはずです。

H君は学校ではイヤなことが あっても決して顔には出さない。先生の言うこともよく聞けて、しっかり自己 コントロールできる【おりこうちゃん》なのです。だからこそ家に帰ってホッとすると、今まで学校で我慢し、押し込めていた様々な感情が思いっきり発散し始めるのです。

これは《心や体のバランスを保つ》ための大切な行動です。 それを理解せずにむやみに叱りつけたり注意しすぎると、自分の欲求、感情の捌け口がなくなり、《心の便秘》状態になるのです。

●心も体もホッと安心できる場

幼児期、少年期、そして思春期までは、子どもは自由自在に思いっきり全身を動かして遊ぶ時間や空間が必要です。そのことで心も体も頭もすこやかに成 長していくのです。

特に男の子が一日中じっと同じ姿勢で机の前に座ってお勉 強することは、不健康きわまりない状態なのです。「H君は幸せですね。おばあちゃんがいて下さって。心も体も裸になれるところがあるんですもの。ご心配なさらなくても、彼はまともに成長をしていますよ」「ええ、学校でも母親の前でも、ずいぶん我慢しているのでしょうね」と、おばあちゃんの表情が優 しく変わっていかれました。

それからは彼の暴言が激しくなってくると、「ああ、今日は学校で何かあったに違いない」と考えられるようになられ、「今日のご飯は何が良いかな?あの子の好きなものにしようかね~」などと、おじいちゃんも一緒になって色々工夫されていくことが楽しみになられたようです。

●心にしみる暖かい息

核家族の共働きの両親に育てられている子ども達は、こういうわけにはいきません。でも工夫することによって《暖かい息》の場は、いくらでも創ってい けるような気がします。私の母も小学校の先生でしたので、幼い頃は早朝に出勤し、帰宅は夜遅くという生活でした。

それでも朝起きて筆箱を開けると、鉛筆がきれいに削って、きちんと並べて入れてありました。それは唯一《母は私 のことをいつもちゃんと見つめていてくれているんだという証》でした。とても嬉しくて、その世界一の鉛筆を握りしめ、私は勉強することが大好きな子どもへと育っていきました。

忙しい中にもそういう工夫をよくしてくれた母へ感 謝しています。みなさんの深く心にしみていく《暖かい息》づくりのお話も、 是非お聞きしたいと思っています。お知らせをお待ちしています。




熱い思いは、熱い息になると伝わる

*あなたならできるよ

ソルトレイクの青い空はどこまでも拡がり澄みきっていました。モルモン教のメッカ、アメリカユタ州にある街、ソルトレイク。私は30代の頃、ひと夏をそこでダンスのワークショップを受けながら過ごしました。ワークショップ受講の登録の日。「先生、私は重症心身障害者の方たちと接した経験もありま せんし、私の英語も充分でありません。ですからハンディキャップの人達のためのダンスのクラスを見学だけの参加にさせていただけませんか?」とお願いに行きました。

クラスを担当される先生は、見るからに穏やかな優しい表情の 50代の女性(K先生)でした。「いいですよ」という答えが返ってくると思っていました。
けれど先生の表情がキュッと厳しいものになり、一言「No!!」と強い口 調で言われたのです。そして、こう付け加えられました。

「アキコ、よく自分を見てごらんなさい。あなたは彼らと同じなのですよ。彼らはほとんど動けな いし、ほとんど言葉も喋れません。でも言葉が充分に喋れないあなただからこそ、誰よりも彼らの言葉が分かるのです。心と心で話せるのです。自信を持って中へ入りなさい。見学だけの参加は許しません。きっとあなたならできますよ。そして彼らがあなたを助けてくれるはずです」と、励ますように私を抱きしめて下さった時、先生の右手はマヒしていて動かない手であることを知ったのです。

*こんなに心が伝わるなんて!

この時の先生の言葉を忘れることはありません。大切な事をK先生は教えて下さったのです。先生のおかげで一ヵ月半の間、毎週専用バスに揺ら れ、車椅子に乗って施設から通ってくる彼らと一緒に学ぶことができました。 彼らは私を大変大事にしてくれました。私にできないことがあると、すぐに私を助けようと、動かぬ手を動かしながら、言葉にならない声を出しながらアドバイスをしてくれました。まともな英語での会話ではないのに、何の異和感もなく、まるで日本語で話しているかのように心が通い合うのです、不思議な感覚でした。

そしてセミナーが終わる2日前の夜、ソルトレイクの街の人を招待してのダンスコンサートが開かれたのです。『ハンディキャップの人達とのダ ンス』がラストプログラムとして置かれていました。

もちろん彼らは車椅子に乗ったままです。でも充分に動かすことのできない 腕、手、足、首、頭で表現されるその中に込められた熱い想いは息となって体中からほとばしり、自由に動ける私達ダンサーの動きをはるかに越えて、より自由に無限に雄大に拡がって、見ている人達の、そして共に踊りあっている仲間達を感動させたのです。

その中の一人として、踊れていることが嬉しくて・・・。 私だけでなく、出演者も観客もスタッフも全員が感動の波にあふれたコンサートとして終わりました。今まで経験したことのない、美しく厳かな踊りでした。

私だけでなく、誰しも熱い想いが息で伝わる体験はお持ちだと思いますが、私もまた嬉しいエピソードがあります。それは、次回にお話ししたいと思います。




手が語るこころ

●手のつなぎ方に表れる心

街を行くと、高齢のご夫婦が手をつなぎ、お互いをいたわるように寄り添い ながら歩いていらっしゃる光景に出逢うことがあります。いいなあー。気持ちもほっこりします。
人類は手を使うことによって脳を発達させ、知恵を膨らませてきました。そ して私たちの手には、いろいろな素敵な力が備わっています。

「ハイ、二人で向かい合い、両手をつないでみましょう」 「では、そのまま手を離さないで、つないだ手を見て下さい」 「手のひらを上から置いている人は、『私のことはどうにでもして!あなたにお任せ! という甘えタイプの人』」 「手のひらを下にして相手を支えている人は『あなたのことは私に任せてと!』というお世話タイプの人です」 と説明すると、一斉に会場からドッと笑い声。これはボディートークの人間関係法の代表的なプログラム「手つなぎ」です。

無意識の中で見事にホイッと出 てしまった自分の心に、思わず笑いたくなります。意識はしていないけれど、 手をつなぐと相手に心が分かる。これは初めて会った人と握手をした時、「あ、 この人は強引だな」とか、「顔は恐そうだけどやさしい人だな」とか、感じることからも言えます。無意識に相手の心が手から伝わっているのですね。

1 二人向かい合って立ちます(少し両足を開いて)

2  まっすぐに手をのばし、両手をつなぎます。

3  水上スキーをしているようなフォームで、自分の体重を自分の背中のほうへかけていきます。(互いに引っ張り合う状態になります)

4  手を離すと危険ですから、しっかりギュッとつないでおきます。

5  バランスが取れてきたら、つないだ手を少しずつゆるめていき、ユラユラと 気持ちよく揺れて楽しみます。(ハンモックにもたれたようなお昼寝気分を味わえます)

6 お昼寝気分をしばらく楽しんだ後、「サァ、いじわる手つなぎをしよう」と言いながら、「イ チ、ニイのギュッ!」とお互いにつない だ手を力いっぱいにギュッと握りしめます。 ゆるんでいた体が突然固められ、「イヤダ!」「ヤメテ!」という不快感が体中に走ります。

7 すぐに手をゆるめ、手を離します。 「アー」と言いながら体を揺すったり、胴ぶるいをしたりして不快感を取り除きます。 「もうイヤなつなぎ方はしないからね」と体に言いながら、この状態から1から5までをもう一度やってみます。

最初は安全のために手をギュッと強くつなぐことは不快ではないのに、慣れてきて手をゆるめても最小限の力でお互いを支えられる心地良さを知った後では、強い力でギュッと握りしめられることが、今度は不快感となってしまったのです。私たちの体は、危険な時、不安な時はギュッと体を固くして自分の身を守ろうとします。しかし安全で安心な時は、ホッとして心も体もゆるみ、やわらかくなっています。

一般に赤ちゃんや病気の人の体は、繊細でやわらかです。また外から見ただ けでは、その人の体の中身がやわらかいか固いかは分かりにくいものです。ですからそういう人達の手を、突然ギュッと強く握りしめたり、ギュッと抱っこしたり、背中を強くたたいたりすると、相手の人は痛みを感じたり、不快に感じることもあるのです。

ですのでボディートークでは体に触れる時、まず「ふ んわりと繊細に!」を心掛けるのは、その為なのです。




困ったときには三人輪くぐり

● 泣いて 心・体・頭をリラックスさせる技

「できない!できない!」 「だって、私にはとうてい無理なんだもの!できるはずない!」 自分では解決できないほどの問題を目の前にした時、ついこう叫びたくなりますね。こういう時は思い切ってあきらめてしまうか、ちょっとその問題から 離れてみるといいのでしょうが、それでも逃げられない状況に立たされた時、 あなたはどうしますか。むしょうに腹が立ってやたらに食べ始める人もいます し、泣き出す人もいるでしょう。

私はかつて大学入学の頃、身長160cm、72kgの体重で、ニックネームも 「ブーちゃん」と叫ばれていました。その体重で強制的に入部させられた新体操チームのメンバーは皆、国体出場経験のあるバリバリのスポーツ・ウーマン。 その中で、難度の高いテクニックを一緒にこなしていくのは至難の技でした。

何百回、何千回練習してどんなに頑張ってみても、どうしてもできない技になると、自然に涙が目から溢れてきて、何故か大泣きしていました。すると不思議なことに、泣いた後には必ずその技ができるようになるのです。こうやって、 泣いて心・体・頭をリラックスさせる技上達し、一年後には体重も50kgラ インに減量。チームは全九州で優勝を飾ることができました。

● 三人輪くぐりの知恵」

そんな私も42才でボディートークに出合ってからは、ボディートークのパ フォーマンスの中に見つけた知恵に助けられ、生き方もずいぶん変わっていきました。今回は、困った時にきっとお役に立てていただけるおすすめのパフォ ーマンス『三人輪くぐり』をご紹介いたしましょう。

《三人輪くぐり》
1 三人互いに両手をつなぎ輪をつくります。  2 そのつないだ手の間を「ホッホッホッホッ」と発声しながら、ペンギン歩きでくぐり抜けていきます。くぐったり、出たりを繰り返すことによって、各々の肘・肩・体が必然的に色々と変化しながら動きます。  3 上達すると、「シュ〜」とか「スルスルスル」とか風が穏やかに吹き抜けていくようなイメージで、なめらかにスピードをあげて動いてみます。  4 もっと上達すると今度は 2、3の動きを目を閉じたままでやってみます。 最初はお互いの手を引っ張りすぎあったり、ぶつかったり、ギクシャクして 上手にできないのですが、工夫してやり続けていくうちに“アレッ!スムーズ に動ける様になった”と感じれたら、成功です。

三人各々が、自分の心・ 体・頭をひとつとして、しなやかに素直に、その流れに身を任せるようになる と、オノズと生き方、考え方、行動の仕方も、その場の変化にホイッとついて いったり、積極的にリードできるようにもなっていくのです。

このバフォーマンスの大きなヒントは、手をつなぐという条件を制約されているので不自由〉と捉えるか、〈制限があるからこそ、その中に《生み出さ れるものがあるから素敵〉と考えるかです。私はこのパフォーマンスが大好きです。特に目を閉じると(視覚をクローズする)、残された感覚が敏感にな り、体の声が聴きやすくなってきて、全身がさらに自由になり、まるで無重力の中で漂っているような楽しさです。

● 大切なものが見えてくる

今、私は二本足でスムーズには歩くことができ ません。三本足(一本は松葉杖に支えられ)でゆ っくり一歩ずつ歩くのが精一杯です。でもその中で赤ちゃんがハイハイから立ち上がり、歩く営み の凄さを改めて感じたり、事故や高齢になり今までやれていたことがやれなくなっていく人たちの 気持ちにも、寄り添える自分になっているような気がします。

「三人輪くぐりの時、ぶつかったり体がもつれるような時は、そこでちょっ と立ち止まったり、ちょっと力を抜いてみてくださいね」と、アドバイスをす ると、スムーズに動ける様になることもあります。

新幹線に乗ると、早くて便利ですが、外の光景はあっという間に流れ去ってしまいます。でも、一歩ずつゆっくり歩いてみると、普段見えなかったものも、 これまで見落としていたものも自分の心さえも見えてくるものです。ひょっと したら、赤ちゃんやお年寄りの方が、自分にとって大切なものが輝いて見えて いるかも知れません。




心がときめく秘密

● 桜が知っている私のひみつ

ないしょ  ないしょ  ないしょの 話は あのねのね
ニコニコ にっこり  ね母さん〜 ♪

この歌のように、秘密のお話って何だかちょっと胸がときめきませんか? 私にも心がときめく《ひ・み・つ》があります。20年前、アキコダンスファ ミリー(私の主宰する、赤ちゃんから80代までが踊るダンスグループ)の10 周年記念に福岡の甘木公園(通称丸山公園)という桜の名所に桜の木を献木させていただきました。

皆で一人ずつ自分の願いを書いた紙を、その木の根元に一緒に埋めま した。その木は20年経ち、もう立派に大きくなっています。もちろん願いを 書いた紙はすでに土になっています。でも、私だけが知っている紙に書いた願いは、春の桜の花とともに膨らみ続けています。

● 折鶴に込められた願い
もう一つの私の心がときめく《ひ・み・つ》 は折鶴のお話です。かつて私が短期大学で教鞭 をとっていた時、縁あってアメリカのスティー ブンス大学に日本舞踊の交換教授として招かれ ました。

1月から3月までの短い期間でしたが、 100年の歴史を誇るその大学のダンス科には、 世界各国からすぐれた若いダンサー達が集まり、 スカラシップ学生として30名学んでいました。ミズリー州は、その年例年に ない豪雪でした。まだ薄暗い朝、誰の足跡もついていない白銀に染められた広い広いキャンパスを、着物を着て、ピンクのブーツを履いて一人教室へ通 っていました。(毎朝20~30cmの積雪でした)

講座のまとめとして学生全員で踊る日本舞踊のコンサートを無事に終え、お別れの日がやってきました。私は彼ら、彼女らの為に、プレゼントを用意して いました。(それは小さな折鶴でした。全長 4~5cm)「日本には千羽鶴というものがあります。一羽一羽に自分の願いをこめて折っていくのですよ」と、 折鶴の歌を歌いながら、一人ずつの手のひらに、それを渡していきました。実 はその折鶴のウラには、「いつまでも、すこやかに」という私の願いと一人一 人にあてたメッセージが書き添えられていたのです。でもその事は折り鶴だけ が知っている、私の《ひ・み・つ》です。

ベンチの贈り物 では最後にとっておきのお話をいたしましょう。京都にある妙心寺のバス停 には、木製のベンチが一つありました。でももうボロボロになってしまって腰をかけるのも怖い位。ところがある日、バス停での二人の女性の会話。

Aさん「アラ!このベンチ新しくなったんですね。良かった〜。これで安心して座れますね。ああ気持ちいいこと」 Bさんも「アラ、本当に気持ちいいですね。良かったですね」とニコニコ顔。実はこのBさんこそ、ベンチを注文し、そっと誰にも分から ぬように置き換えた方だったのです。

その方の名前は増田美和さん。そう、明先生のお母様だったのです。そのお母様は来年で100歳になられます。いつお会いしてもお元気で、明るい笑顔で微笑んで下さいます。その微笑みに包まれると、心も体もホッと暖かくなっていきます。

そしてお母様の心の奥には、もっともっと《きらめくひみつ》が いくつも隠され、それが明るさと元気さとなって輝いていらっしゃるのでしょう。長い人生を歩いて来られた方々の心の奥には、外から は見えないけれど、きっと《きらめくひみつ》がいっぱいあるのでしょうね。

《内なるきらめき》が持つ穏やかさは、私にはこよなく美しく感じられます。 その美しさは、いつの日か私もそうなれたらと願う心を育ててくれます。みなさんの周りにも《きらめくひみつ》のお話がたくさんあることでしょう。時々、 そんなお話をゆっくりお互いに語り合うと、あちこちに心の花が開き始めるような気がしています。




声のかけ橋ってなぁに?

●《虹のかけ橋》って知っていますか?

大空いっぱいにかかる七色の虹を見た時、「わぁ、すごい!」「きれい!」と思わず叫びたくなりますね。すぐに消えてしまいますが、消えた後も「あ~、幸せ」というような気持ちに満たされていた、という体験をお持ちの方も多いと思います。そんな思いを増田先生はバイオリンの基礎レッスンの中に取り入れて下さいました。《虹のかけ橋》という方法です。

それを簡単にご説明いたしましょう。《虹の架け橋》
太さの異なった四つの弦を、順に太い方から細い方 へ、また細い方から太い方へと上下に弓を動かし続けます。すると四つの弦が互いに共鳴し続け、その音が重なりあって、まるで虹のような美しい共鳴音を奏でていくという方法です。

この練習を数人で一緒に行なうと、さらにその音が響き合い、その響きに全身がたっぷり包まれ、ふんわりと暖かくなっていくのです。それにこの練習をすると、初心者なのに何だかとてもバイオ リンが上手になって名演奏家になったような気分になれるのです。

《声のかけ橋》をやってみると… これにヒントを得て《声のかけ橋》というパフォーマンスを考えてみました、ご 紹介いたしましょう。

●《声のかけ橋》のレッスン

① 2人向かい合って座ります。まず、2人同時に相手に向かって「おはよう
ございます」と、声をかけ合います。(この時は普段あなたがやっている方法
で、声をかけてみて下さい)

② 今度は自分の両手のひらをこすって暖め、そこに「ハァ~」と暖かい息をかけてみます。

③その声で、2人同時にまた向かい合って、「おはようございます」と言 ってみます。その時自分の暖かい声を、互いに相手の口の中にフワァ~ンと まるで「美味しい食べ物をどうぞ!」というイメージで運びいれます。お母さんが赤ちゃんに、スプーンでそっと食べ物を口に入れてあげている感じです。

(※相手に声をプレゼントする前に、一度自分でもその声を食べ、美味しいかどうか味わってみることが大切なポイントです)

④3までの練習がスムーズにいくようになりましたら、今度はお互いに「ちょ うちょ~」の歌を歌いながら、やはり美味しい食べ物を次から次へ、相手の口の中にプレゼントするつもりで歌い続けます。(好きな歌であれば何でもOKです)

⑤このようなイメージでしばらく歌っていると、お互いの声がやわらかく溶け 合い、いつも間にか二人の口と口をつなぐ「声のかけ橋」が出来上がっていくのです。心と体がふんわり暖かくなって、目には見えないのですが声と声がひとつにつながっているという不思議な感覚です。

●赤ちゃんとお話しをする時には…..

ボディートークマタニティや子育ての教室で、私は妊婦さんや赤ちゃんとお話する時には、この「虹のかけ橋」でお話するよう心掛けています。赤ちゃんの小さな口の中に、自分の言葉をそっとやわらかく入れていく。また赤ちゃんの発している音を「この口の中にどうぞ!」とやさしく誘うように自分の口の中に入れ、 それをまた赤ちゃんの口の中に返していくのです。

こうしてお話していると、とても楽しくなっていつまでもお話したり、歌い続けたくなってしまいます。そして気づくと《《声のかけ橋》が《夢のかけ橋》になっていくのです。

●美味しい言葉の交換は赤ちゃんの栄養

ところで「赤ちゃんが育っていくのには、何が必要でしょうか」と問われたら、 誰もが「おっぱい」と答えますね。それから暖かいスキンシップも、もちろん大切なものです。そして《美味しい言葉の交換》は心や体、そして脳の発育の為には欠かすことの出来ないものなのです。

ここでちょっと《交換》というところに注目してみましょう。赤ちゃんは食べ物を自分ひとりで探して食べることが出来ないのですから、与えられるばかりになります。『声』は自分の意思を伝えるものとして、生まれた時から相手に投げ掛けているのです。ですから赤ちゃんは、《言葉》を一方的にあげるばかりでなく、赤ちゃんからのメッセージを喜んでもらってあげる、という姿勢がお母さんや周囲の人達にあると、赤ちゃんは次から次へと自分から相手にメ ッセージを送り続けていくことが喜びになっていくのです。

そしてその喜びが赤ち ゃんの心の栄養にとなっていくのです。このことは赤ちゃんだけでなく、もちろん私達が幸せに生きていくには、一生必要なものなのです。《《声のかけ橋》は、 バイオリンが私にくれた素晴らしいプレゼントでした。

増田先生は、「声は心と体を結ぶかけ橋ですよ」と、ボディートークで教えて下さいましたが、バイオリンの四つの弦が互いに美しく響き合う《虹のかけ橋》のように、人と人のやわらかい声が響き合い、暖かい心がつながっていく、そんな「声のかけ橋」を一度、あなたもかけてみられてはいかがでしょう?きっと、また新しい発見があるかも知れませんよ。