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なま卵とお話し

 

♪  ヒヨコがね  おにわで  ぴょこぴょこ かくれんぼ . 

    どんなにじょうずに かくれても 

        黄色い あんよが みえてるよ~ ♪ 

人間の赤ちゃんも一人で歩けるようになると、もう嬉しさいっぱいであちこち歩きまわり「ア ア ア ア」と、ママたちはいつもハラハラ、目が離せません。 

人間の赤ちゃんが、自分の足で歩き始めるには、生まれて一年ぐらいかかりますが、それに比べヒヨコさんは、突然まんまるの卵が割れると、すぐにピヨピヨピヨ、歩き出すのですから、びっくり大変身です。 

●卵が立たないよ~ 

今回はこの卵を使ってのボディートークのプログラム≪なま卵立て≫についてお話しましょう。これは特にボディートーク指導者を目指す人には必須の学習内容です。 今年テストを受ける人の中に卵が立たず、「う~ん」と悩んでいる人がいます。

日頃の彼女の学習意欲はとても高く、人一倍の努力家です。努力しているのに立たないのです。私は「これはきっと神様が下さった彼女へのプレゼントに違いない」と その様子をニコニコと見守っています。すぐに卵が立たないからこそ、深く学べる絶好のチャンスなのです。 

● そんな時、あなただったらどうする? 

もう30年も前のことですが、熊本で20名ぐらい一斉にボディートーク、リー ダー養成講座をしていた時のことです。「卵は必ず立ちますよ。さあ、やってみま しょう」と参加者に一人一個ずつ卵を手渡しました。

しばらくすると「あ、立った !」という喜びの声がして、最初の卵が立ちました。「本当に立っている!」会場に思わず歓声が起こります。それをきっかけに「あ、立った!」「立った!」と次 から次へと卵が立ち始めました。立たない人は少し焦りながらも、どうしたら立つのかな? と色々工夫しています。私はただ「必ず立ちますからね」とニッコリしているだけ。 

一時間ぐらいすると、ほとんど卵は立ち、二個目、三個目を立てる人も出てきま した。卵が立たなかった人の方が少なくなってきたその時、突然、一人の女性 が「こんなことして何になるのよ!!」とすごい剣幕でイカり、立たない卵を置いて サッサと帰ってしまいました。 

● どの卵も一つずつ異なっている。 また、女子短大のボディートークの授業ではこんなこともありました。 「卵は必ず立ちますからね。そう信じてやってみて下さいね」とだけ言ってすぐに プログラムスタート。しばらくすると「先生、どうも私の卵は立ちにくいみたいで す。交換してもらえますか?」とたずねる学生が数人出てきました。予備に持ってきていた卵ケースを差し出し、「良いですよ。どうぞあなたの好きな卵を選んでみ て」と、やはり私はニッコリしながらOKしました。(授業後に、もしこの卵があなたの赤ちゃんだったら、出来が悪いからって取り変えることはできませんよね・ ・・とコメントをしました) 

でもさすがに、ボディートークの50人の背中叩きを実行し、背中叩きのテストに 合格した学生達です。卵とのボディートークも上手にできたのでしょうか?50分 の授業内に生卵は全部見事に机の上で立ちました。そして、一つ一つ卵の傾き方は、 すこしずつ異なって立っていました。学生達は「美しいねぇ~」とか「良いねぇ~」 とか言いながら、自分の立てた卵と一緒に笑顔で記念撮影会を楽しんでいました。

授業後での感想には —「あ~、私には必要だったことはこれだったのだと気づきました。もう自分は何をしてもダメなんだと自分のことをあきらめていました。

でも、無心にひたすら自分を信じ続け、‟自分の内にある良さを見つけようと努力”し続けることが大切だったのだ、と卵が教えてくれました。卵が立った時、自然に涙が出てきました」とか、「最初は卵が立つなんて信じられませんでした。でも先生が『必ず立ちますよ、あきらめないで』と繰り返される声に励まされて最後まで頑張ることができました。立って本当に嬉しいです。ありがとうございました」と感謝の気持ちが生まれてきた学生もいました。 

人は誰でも決して一人では生きていくことはできません。赤ちゃんから成長していく過程の中で、沢山の人の思いに見守られ、支えられながら、 これまで生きていくことができたのです。

当たり前のことですが、 いつの間にかそんな事、忘れてしまっていることが多いのかも? そし て、自分の中に生きていこうとする強い生命の力があるからこそ、生きていられ るというのも真実です。≪生卵立て≫は≪生きているとは何か、自立とは何か?  支えるとは何か? ≫ など、新鮮な感覚で体に蘇らせてくれる素晴らしいボディー トークのプログラムなのです。

 私は幸い(?)卵を立てるまでに数週間かかりました。そして立った瞬間、「ワァ ~立った!立った!」と大声で叫び、手が痛くなるほど拍手し、部屋中をかけ廻りました。物言わぬ卵を見つめ、ひとすら話し続けた貴重な時間。≪自分や他の生命との関わり方を誰からか教えられるのでは なく、ミズカラ感じ取り、学んでいく姿勢≫ 明先生はこのプログラムを通して、 ボディートークの本質を教えようとされていたのです。

私が卵に教えられたこと はいくつもありますが、それは次回号に引き続きお話させていただくことにしましょう。今、子育てや自分の生き方に迷っていらっしゃる方、生卵立てはお勧めです。




おっぱいほぐしパート3

ふんわりと生命にふれるには? 

3回目のオッパイほぐしシリーズです。今回はオッパイほぐしを、ふんわりと行なうためのイメージづくりについて、お話しましょう。 

皆さんの<ふんわり>のイメージって、どんなものでしょうか? 青空にふんわりと浮かぶ白い雲、風に揺れるシャボン玉、美味しい綿菓子、ほかほかのお布団、 桜の花びらなど、そのイメージは人それぞれですね。 

●ふんわり布使い ― 空気で包む 

全国展開しているエンゼルハンズセミナーの、ブログラムの中に <ふんわり布づかい> があります。大きな布、ゴース(薄い透明のファ~ッとした、長さ5mの布)の両端を二人が両手でもって、上下に動かします、布の中に上手く空気が入ると、ファ〜ッと風のように舞い上がり、舞い降りてきます、持っている人が荒々しく使うと、布は怒ったように動き、布に語りかけるように優しく扱うと、まるで風に舞う蝶のように動いてくれます、 

私は30年近く、バレエやミュージカルの舞台をやっています。赤ちゃんから幼児、高齢者までが出演しますが、このやわらかなゴースは欠かすことのできない、舞台セットの一つとなっ ています。衣装として使われたゴースは、時には 10m以上もの長い布がセットとして何枚も舞台で動きだすと、空気をたっぷりと含んだ布が、 独特の空間を作り出していきます。このゴース をふんだんに使うことによって、出演者の心が ファ~ッと穏やかにやさしくなり、たちまち舞台が夢のような幽玄の世界になっていきます。そして、布を動かす人の心の有り様を見事に表現してくれるのです。 

本来は人の手も、この布のようにやわらかくファ〜ッとしているものなのです。ところが、日常生活の中で重い物を持ったり、複雑な作業を強いられている手は、いつしか固くなり、また自然素材のものでない、固く冷たい人工の創られたものばかりに囲まれている現代の生活では、ふんわりしたものに触れる機会が極端に少なくなってしまっています。

エンゼルハンズセミナーでは、布を自分の心と体のつながりとして、<ふんわり>動かすコツを<メニューの中の‟手の原理”>で学習します。 

●手はどこから出ているのでしょう? ≪タコの手のイメージづくり≫

1 自分の手は、オヘソの後ろの部分(両手を後ろに回し、組みます。その手をウ エストラインの中央に置いた位置、腰椎の3.4番の位置です)から付いているとイメージします。 その部位から、背中→肩→腕→肘→指先へと、手が伸びているイメージをしま す。布を持って動かす時も、体ほぐしをする時も、「あっ!手は腰から付いている」と、いつも意識しながら練習してみて下さい。すると、最初は指先だけで体ほぐしをしていた人も、いつの間にか、ふんわりと全身で体に包まれる感覚が、身についていきます。

ボディートークの<マタニティー、子育て>の基本は、ふんわり、ゆったり、たっぷりと、 ですから、おっぱいほぐしも体ほぐしも、このイメージが体を通して実感し、「あ~、生命ってあったかいなぁ〜、良いなあ~」と、感じることで、生命が膨らんでいくのです。 

最後に ≪ふんわりタッチの手≫ でA子さんの体ほぐしをされたSさんは「私はただ、少しでも楽になってもらえたらと、寄り添い、ゆったりと 包むように全身を暖めながら、A子さんの体や心の流れがスムーズになろうとする力を、一緒に待ったのです。私も同じように出産、授乳、子育てと、辛い時期を 沢山ありました。

だから、A子さんも赤ちゃんも本当に辛いだろうなと思えました。 A子さんに、「辛かったねぇ~よく頑張っているねぇ~」と声かけしながら、全身に暖かさが伝わっていけるよう、何度もなんども、“温める、溶かす、 流れをつくる”動きを繰り返したのです。 

体ほぐしの後、A子さんに笑顔が戻りました。驚くほどに楽になられ、オッパイもよく出るようになりました。今は赤ちゃんと一緒に、元気で毎日を送っているそうです。 




BTおっぱいほぐし パート2

ふんわりと暖かい手のぬくもりで包んであげましょう

先月 <一人で行なうオッパイほぐし> を紹介しましたが、今回は <二人で行 なうオッパイほぐし> について、実例を挙げながらお話いたしましょう。A子さん はオッパイの悩みで、ボディートークの指導者のSさんのところに相談に来られました。

●A子さんの報告より

1  出産直後
初産でかかった病院は、母乳育児を積極的に勧めていました。ですので母乳が出なくても、ギリギリまでミルクを与えないという方針で、母乳があまり出ないのに、赤ちゃんにずっと出ないオッパイを吸わせていました。我が子は常にお腹を空かせ、泣き続けていました。乳首も痛く、入院中は睡眠時間もとれなくて、赤ちゃんも可哀想で、自分を責めながら、悲しく辛い思いをしていました。そんな時、知人からボディートークを紹介されました。

2  マッサージとボディートークの体ほぐしの違い
痛いところだけをマッサージするのとは違い、 全身をほぐしていただきました。そして自分の悩み が、体にしこりやユガミをつくっている、ということに気が付きました。

3 ボディートークの効果
体はやわらかくなって、楽になりました。また自分で自分の心や体のことが客観的によく分かったことで、精神的に不安定だったのが解消され、心も楽になりました。そして母乳は、とても良く出るようになりました。 赤ちゃんとのスキンシップやコミュニケーションの取り方なども、余裕を持ってできるようになってきました。

最初のブライベートレッスンは、体も硬く、体ほぐしの時の声が全く出 ていません。しかしほぐれていく毎に、どんどん息切れせずに声が出せるようになっていくのが新鮮でした。心の悩みで声も出ないくらい、体を硬くしてい たので、オッパイは出にくくなっていたのです。ボディートークに出会えなかったら分からないままだったと思います。

《二人で行なうオッパイほぐし》
リラックス姿勢をとりましょう。オッパイがぶら下がる姿勢をとります。ブラジ ャーははずします。

《ほぐし手》は、自分の両手をあたためておきます。

《受け手》は、椅子にすわり、テーブルなどにうつ伏せ姿勢で寄りかかります。
次に《ほぐし手》は、首から指先までをほぐしましょう。

《受け手》の片側に寄り添うように座り、首、肩、上腕部、肘、手、指先の順にその部位をあたため、揺すりながら、ゆっくりほぐしていきます。

(あたためる→溶かす→流れをつくる イ メージで)ほぐれたら、最後に首から手先に向かって、ファーッと空気の波が流れ ていくように、なでおろしていきます。

《ほぐし手》は「よく頑張っているねぇ~」 「よく頑張ったねぇ~」とか、「辛かったねぇ~」「我慢したねぇ~」とか、声をか けてあげましょう。

《ほぐし手》は、手先だけでほぐすのではなく、自分の体のや わらかい微振動が、手先から《受け手》の体に伝わるように揺すります。

次に、オッパイをほぐしましょう。再度《ほぐし手》は、自分の手をあたため直 し、やわらかくほぐします。その手でそっと、たんぽぽの綿毛を両手でふんわり、 やさしく包むようなイメージで、オッパイの基底部を包みます。(フワフワおわん をすっぽり両手の中に包み込むようなイメージです)そ~っと、そのおわんの中に 微振動を送り続けます。(オッパイの中が細やかな、あたたかい揺れで動きを続けると、その波でオッパイのしこりや歪みが、ほぐれやすくなるのです。ぶら下がっ たオッバイへの波が、揺れながら、ラセン状を描き、下方へ搾り出されていくイメー ジで)《《ほぐし手》《受け手》ともに、「アー」と柔らかい、あたたかい息で発声し続けます。(その声が細やかに揺れている時は、中身がよく揺れている事になります)

【注意】
・ 決して、強く揺すったり、強くもんだり、押したりしないよう注意して下さい。

・《受け手》「気持ちいいですか?」と、尋ねながらやりましょう。

・不快感や吐き気がくるようでしたら、すぐにほぐすのをやめて下さい。

※オッパイから伝わる、心地良い振動が《受け手》の全身に広がり、ほぐされてい る人がまるで赤ちゃんになって、羊水の中で揺れ動いているようなレベルにまでなれると最高です。




おっぱいほぐし パート 1

ふんわりと暖かい手のぬくもりで包んであげましょう!!

妊娠、出産、授乳、子育ては、女性の心と体に大きな影響を及ぼします。この時 期は、女性の持っている自然の力がもっとも膨らむ時期です。ですから、内なる自然の力をうまく引き出す様に心がけると、楽に豊かに過ごすことができます。

ところで「オッパイほぐしのご経験は?」『長い10ヶ月もの妊娠期を過ごし、出 産を終え、「あ~うれしい!」と生まれたばかりの赤ちゃんを抱きしめながら、感 動、祝福のひとときをと思っていたのに、エッ!どうして? お乳が出ないの?泣き続ける赤ちゃん、悲しくなって涙が出そうになる…。乳頭からは血が滲み、身が 縮むような痛いオッパイほぐし。その辛さをジッとガマンして耐えていました』と話される方が多いのに驚かされます。

そこでボディートークの視点からいくつかの アドバイスをしてみましょう。
最初は、妊娠する前からやっておくと効果的な、体ほぐしと運動の紹介です。

● 全身をやわらかく、しなやかにしましょう
1  四つん這いオッパイブラブラ運動(ブラジャ ーは外して行いましょう)
・四つん這い姿勢で「ア~」と声を出しながら、 オッパイもお腹もブラブラゆっくり揺すりましょう。

・乳頭部には触れないで、オッパイの基底部の ところにそっと手を当て、「アー」と声を出しながら乳房をやさしくブラブラ揺らします。 ※毎日寝る前に、自分のおフトンの周りを2周ぐらい「アー」と言いながら、気楽 にゆっくり歩き回ることを勧めています。

2  首・上腕部ほぐし

首のまわり、肩、上腕部、手の部分の筋肉を柔らかくほぐします。

3  片手 ブラブラ、ストン
・ 片手をバンザイするように頭上に上げ、その状態で手をよく振ってス
トーンと下に降ろします。「アー」と声を出しながら行います。

4  肩の荷おろし
片肘を曲げ、「ホッホッホッホッ」と発声しながら、 その肘を上下動させて肩に波を送ります。首は曲げた肘の方に傾けます。

※3、4は続けて行い、もう一方の手も同様に行います。

5  四つん這い 肘ブラブラ (エアー雑巾がけ)
· 四つん這い姿勢で片肘を曲げ、雑巾がけを行なうイメージで肘の先でタテ、ヨコ、ナナメ、マワスと方向を変えながら動かします。肘を床から少し浮かせ、 声は「アー」とか、「ホッホッホッ」とか、自分の息が楽になる声掛けをします。
・ 反対の肘も行います。

こうした運動を、発声を伴いながらすることで、上半身の筋肉、特にオッパイに つながる筋肉がほぐれてやわらかくなり、その部位の血液は神経の流れが良くなるのです。どの動きも、ただ動かすのではなく、まるで自分が赤ちゃんになってお母さんの羊水の中で気持ちよくユラユラ揺れているような、心地良いイメージを大切 にしながらやってみましょう。

ところで、どうしてオッパイが出ないのか?その理由は様々ですが、オッパイが 出ていたのに、突然の精神的なショックでオッパイが止まったというのはよく聞く話ですね。それほどオッパイが出るかどうかは、精神的要因が大きいのだと考えられます。

動物も人も、自分の身が恐怖や危険にさらされると、体を固くして、自分の身を自分で守ろうとします。出産はまさに自然の営みそのものですが、生命がけで全精力を使い切っての営みです。初産でしかも難産だった方であれば、 体のあちこちを固めてしまうのも、当然のことでしょう。ですから、どうか「どうして私だけオッパイが出ないの」と、一人で悲しんだり、自分を責めたりしないで 下さい。まず「よくやったねぇ」「偉かったねぇ」と労わり、誉めてあげて下さい。

ふんわりと暖かい手のぬくもりで、傷ついた心や体を、そっとやさしく包んであげ て下さい。その暖かい息と手のぬくもりの中で、気持ちもホッとゆるんで楽になる 中で、ホルモンの分泌を活発になり、オッパイも出やすくなっていくのです。

でも、自分の身を自分で守るために固めた体は、自分の手では、なかなか緩まないものです。そこで次回は、《《二人で行なう体ほぐし》でのオッパイほぐしにつ いてお話させていただこうと思っています。




日本でのモンゴルの赤ちゃん

サラン・マンドホさんは、モンゴルの歌姫です。 若くして留学生として来日し、音楽を勉強しました。モンゴル人のボディートーク会員第1号です。 来日当初、ボディートークのセミナーに参加しましたので、「モンゴルの歌を聞かせて欲しい」と頼みました。広い体育館の片端で彼女が歌いだすと、その声にビックリしました。建物の中の感じが全くなくて、広々とした草原で風に乗って歌声が流れる、というのが実感です。決して大きな声を出してはいないのですが、大地にしっかりと立った力強さから発する伸びやかな声は、モ ンゴルの平原を彷彿とさせるものでした。

そんなに素晴らしい声が、数年後に聴いた時は魅力が半減していました。と言いますのは、日本に留学している数年間で、日本の声楽家にクラシックの発声を教わったからです。もともと歌のテクニックはすごいので、イタリア歌曲などを身につけたのは良しとしても、肝心のモンゴルの歌に草原の風が影をひそめてしまっては、何をか言わんやです。せっかく夢を抱いて来日したモンゴルの歌姫を、もっと大事に指導してほしいと私はヤキモキしました。

サランという名前は「月が昇る」という意味です。そして、やはりモンゴルから日本へ留学に来ている男性と結婚して、赤ちゃんを授かりました、名前はナリタとつけました。モンゴル語で「太陽が昇る」という意味だそうです。このナリタ君のお話をしましょう。

見るからに健康で、ずっしり構えたその風貌は、横綱の朝青龍にそっくりです。ところがこのナリタ君は、よく中耳炎になるのだそうです。またナリタ君だけでなく、モンゴルから来た留学生が、そのまま日本に移住して赤ちゃんを産むケースが多いのですが、その赤ちゃん達が日本にいると特に耳の病気にか かりやすいというのです

モンゴルの子ども達は幼い頃から踝馬に乗り、平原を駆け回る騎馬民族です。 骨格や筋肉をしなやかで丈夫なものに発達させています。体全体で馬の揺れをじ、その波にみずから積極的に乗り、馬と人の動きが一体となって、何の違和感も感じることなく、気持ちよく走り続けます。

走り行く馬の弾む振動は、子ども達の内臓や骨に伝わり、内臓は活性化され、 骨が強化されます。まさに≪馬の背揺らし≫や≪ペンギン歩き≫が、日常生活の中にダイナミックに、たっぷりと組み込まれているのです。ですから、モンゴルの大人の身体はがっしりとして、首も太く、たくましいですね。それでないと、すぐに骨折をしたり頚椎に支障をきたしたりしてしまいます。

モンゴル民族の遺伝子を持つ赤ちゃんにとって、成長をしていくのには上下動は必修事項なのでしょう。日本での車社会や狭い家屋での生活は、身体的にも精神的にも、満たされないものに違いありません。馬での上下動や振り子運動で、バランスを保っていた細胞が動かないので、機能低下になり不調を引き起こす原因になっているのでしょう。

体が揺れたり上下動することで、耳の中のリンパの流れが良くなったり、耳石をコロコロ動かして平衡感覚を保つわけなのですが、日本で育つモンゴルの赤ちゃんは、その動きが大変少なくなりますから、耳の不調に繋がるのではないではないかと考えています。

また騎馬民族は広い草原で体の中から声を出して響かせますが、日本にいると大きな声を出す事もなく、細胞レベルで満たされないものが、モンゴル人の赤ちゃんには重なっているのかもしれませんね。

そんな話をしてナリタ君をお母さんの膝の上で、馬に乗るような要領でピョンピョン跳ねるようにしてもらいました。すると、なんと驚くほど元気に活発に動き出しました。原初的な民族としての長い歴史の遺伝子のつな がりの深さを、赤ちゃんを通して教えてくれているのですね。

骨は重力方向と振動が加えられると、カルシウムの分泌が促され、強化されていきます。揺れ動く耳の振動が直接関与する、人の背骨を刺激したことで、 しなやかで強健な骨格が形成されていくわけです。モンゴル人の赤ちゃんには、 モンゴルの声や動きが大切なのです。




五感を通して伝わる暖かい心

赤ちゃんは、可愛い口元をポッと開いてアクビをします。その仕草はとても微笑ましく、思わず優しい気持ちになって、見ている私たちまで頬ずりしたくなります。赤ちゃんは周りの気配に敏感ですから、暖かく柔らかい空気に包ま れると、安心して眠りに入ります。

面白いのは、テレビの映像の中のアクビは赤ちゃんには伝わりません。もっぱら周りの生身のアクビに反応するの です。

赤ちゃんの神経はとてもナイーブです。その五感は、周りの人の声や動きをキャッチして、全身で、自然に、素直に適応していきます。迷いも躊躇もありません。動物学で言われている「擦り込み」なども、その代表的な例でしょう。

鳥の赤ちゃんが、生まれてすぐに目の前の動くものを見ます。その動く物体を母親だと認識するのです。その後、ずっとついてまわるようになる話は有名で すね。
世界中の赤ちゃんは、人種を問わず同じ声で泣きます。ところが大きくなる環境の中で、その周りの言葉を身につけていきますから、言葉をしゃべるようになると、どこの国の人だかを判別できるようになります。また言語によって発声の方法が異なりますから、息の仕方も微妙に変化していくのです。

赤ちゃんは「アーアー」とか「ンマンマ」とか、未 だ言葉にならない声を様々に出します。いわゆる喃語です。この発声は極めてプリミティブにして、言語を獲得するための準備にふさわしいのです。赤ちゃんは喃語を発しながら、周りの人々の言語に全身全霊で反応していきます。そっくりそのまま真似をするのです。なので、お母さんや家族の声に大変よく似てきて、電話をしてもお母さんなのか、娘さんなのか、よく分からなくなってきます。

2才半になる女の子が、おばあちゃんに連れられてグループレッスンにやってきました。大人たちが互いに行っている「体ほぐし」を興味深そうに見ていました。いつの間にか私の横にパタッとうつ伏せに寝ました。「みんなと同じように、背中をほぐして!」という無言の催促です。幼児の背中をほぐすに は、特に繊細なタッチが必要です。私は、このタッチを《赤ちゃんを抱く手》 と命名して、かつて女子短大生に教えていました。すべての人に習得してほし い「生命のふれあい法」なのですが、特にこれから母になる女性には必要不可欠な能力です。

帰ってから、おばあちゃんが女の子をほぐそうとしますと、その子はムクッ と起きてきて、「おばあちゃん、城石先生はこんなにしていたよ」と言って、 代わっておばあちゃんの背中を揺すりました。そのタッチの感触はもとより、「 手の当て方、座り方、雰囲気が、まるで私に生きうつしのようでした」と、おばあちゃんが報告してくれました。

私の手の感覚は、女の子の皮膚を通して、 息遣い共々に正確に伝わったのだ、と思います。「脳皮同根」と言われるよう に、体で感じたことは、そのまま脳にイメージとなって刻み込まれるのです。

私は今、看護学校でボディートークの授業をしていますが、心配なことがあります。ナースの卵達は熱心に授業を受けてくれます。とても真面目なのです。 けれど、熱意を込めて話しかけても、何だか機械に向かってしゃべっているような不思議な感覚になる時があります。

彼女たちの眼は、確かに一斉にこちらを見ています。ですが、何か携帯電話のメールを見ていたり、映像の画面を見ているような眼差しに感じるのです。山びこは「オーイ」と呼べば、「オーイ」と返してくれます。しかし彼女たちは、私の呼びかけに対して、応える反応が希薄なのです。眼の輝きが乏しいと言いましょうか、表情の底が浅いと言いましょうか、言葉は悪いのですが「のっぺり」とした印象を受けるのです。

これは一体どうしたことでしょうか。実は 1990 年以降に生まれた子ども達 に見られる傾向なのですが、育った環境が圧倒的に、作られた映像、作られた音、遊び方の決まっているオモチャ等々、反自然的なものに囲まれてきたので す。生身の人の声や動き、人間的なふれあいの場が乏しいのです。

マタニティ講座の中で、「赤ちゃんには毎晩、子守歌をうたってくださいね」と言いますと、「わかっています。子守歌のCDを聞かせています」との答え。「いいえ、お母さんの声が必要なのです」と言いますと、「では私が歌って録音しておきます。」と澄ましておっしゃる若いお母さんもいるので す。

びっくりした私は「お母さんが毎晩、枕元で歌ってあげることが大事なのですよ」と《生身のふれあい》こそ赤ちゃんの心と体を育てるのだ、と説明し ました。




お母さん、お膝が痛いよ~ 立てないよ~

3 才児を持つ母親から相談を受けました、「先生、N子が『膝が痛い痛い、立て ない』って言うのですが、病院で検査をしても、どこにも異常は無いそうで …」「いつ頃からですか?」「ここ1ヶ月ぐらいのことです」「一日中そう言いますか?」「いいえ、特に夕方になるとそう言うのです」

N子ちゃんは、 一人っ子の女の子です。お母さんは働いているので、N子ちゃんは保育園へ行っています。 *1才の頃から、夕方のバレエ教室に親子で通っています。最初の頃は、お母さん にピッタリとくっついて離れず、ちょっとでも離れるとすぐに泣き出してしまっていました。でもこの頃はとても元気になって、同じ年頃の子達と走りまわっていま す。保育園でも活発に動くようになってきたとお母さんが話してくれました。 

「何か、お家で変わったことはないですか?」「ここ一ヶ月、私の仕事が忙しく、 おまけに私の体が不調続きでしたから…。それに引越しも重なって…」そこまで聞 いて、N子ちゃんの背中を「ちょっと背中トントンしてもいいかな?」と尋ねなが ら触れさせてもらいました。いつもボディートークをレッスンの前にやっているの で、すぐに「アー」と声は出ます。

何だか悲しい声です。特に胸椎3番、8番に固 くしこりがあります。「アレ?ちょっと怒っているかな?(胸椎8番から判断)それにちょっと悲しかったんだよね。(胸椎3番から判断)お母さんに抱っこして欲しかったって体が言っているみたいだよ」と言いながら、体をふんわりほぐしてい くと、「そうなんだ」というように、頭をコックリうなずきます。 

N子ちゃんは、保育園で今まで以上に一生懸命元気に活動しています。それで精 一杯頑張った分、お母さんに抱っこしてもらってエネルギーを補充しなければなりません。でも夕方、職場から大急ぎで帰ってきたお母さんは、抱っこする暇もなく、 すぐに夕食の準備、夕食、入浴…と、慌しいばかり。N子ちゃんが「抱っこし て!」と甘えるスキ間もありません。そして、アッという間に時間はすぎて、気付くと、もうおフトンの中という生活が続いていたに違いありません。「抱っこし て!」と上手く言えないN子ちゃんの体は、無意識の働きで、どうにかしてその事をお母さんに伝えたくて、『痛い』という症状に変えて、お母さんにその思いを届 けようとしているのです。 

そのことをお母さんに説明しながら、N子ちゃんの体や膝にあたたかく触れて、 「今日はいっはい保育園で頑張ったねぇ、えらかったねぇ。ごほうびにいっぱい抱っこしようね」と言いながら、心ほぐし・体ほぐしの時間をとってみて下さい、と いうアドバイスをさせていただきました。(おんぶするのも一つの良い方法です。 お母さんの背中のあたたかさを感じながら、お母さんの耳元でお話できるからです)

すると、その夜から見事にN子ちゃんの膝がピッタリと痛まなくなりました。 * 大人の方のプライベート・レッスンでも、突然耳が聴こえなくなるとか、突然歩 けなくなるという例はいくらでもあります。後になれば笑い話のようなことですが、 心と体はつながっているな、と改めて実感させられることが度々です。 

指導者のテストを受けようと決心したある保健師さんが、ボディートークの試験 の前日、突然原因不明で歩けなくなり、這うようにして、次の日試験会場に来られました。でも試験が終わると「アレッ?不思議」どこもどうもなく、スッスッと歩けるのですから…、「試験はこんなにも私にとってストレスだったんですね」と本人も大笑い。

大人でもこうですから、ましてや幼い乳幼児たちは、充分に自分の言葉で自分の思いを伝えられない分、体にアチコチ反応を起こしながら、我が身を守り、我が思いを相手に伝えようとしていることが多いのです。でも、ボディートー クで体に触れることによって、そのことをキャッチしてもらえると、心と体のカギ がスーツと解けてすぐに元気になっていく回復力の凄さも、子ども達はいっぱい持 っているんですね。 

小さなお子さんと接する時、言葉だけにとらわれずに、ちょっと意識を子どもの 声の在り方や息遣いに向けてみましょう。きっと、いろんな心の声が聞こえてくると思いますよ。 




どんな声かけをしようかな?

皆さんは、金魚すくいは得意ですか? 蝶々採りは? この2つ には共通のコツがあるのですが… 。

金魚すくいは、自分の全身を水の精にしたイメージで、そっと金魚に枕をしてあ げるように網を金魚の頭の横にすべらせていくこと。蝶々採りは、全身を風の精にして、風のように親指と人差し指をフアッと蝶の羽根にとまるように置くことです。 そうすると、金魚は気持ちよく昼寝をするように、網の上に静かになってくれますし、蝶々も風のお風呂に入るかのように、手の中に入ってしまいます。つまり《息》と《内動》を相手と同じにすると、普段、難しそうに思えることが、楽しくスムーズにできるようになっていくのです。 

これは声のレベルでも同じことが言えます。今回は声かけの大切さについてお 話してみましょう。1才5ヶ月になるR子ちゃんが、お母さんと一緒に体ほぐし講 座に来ました。どうも部屋の隅に置かれた 白板の脚(幅5cm、高さ10cm 位)の上に乗ることに興味を持ったようです。お母さんに 右手を支えてもらいながら右足で上がり、白板の脚の上でバランスをとると、今度は左足 から降りるという動作を何度も繰り返し始め ました。

そうしている内に、今度はお母さん の手を離し、一人でやってみたくなった様子です。でも、どう考えても、まだ一人でバランスはとれそうもないので、お母さんはつないだ手を離すわけにはいきません。私はそっと二人の傍により、R子ちゃんの左手を、然り気なく白板の支柱のところへ持って いきました。すると「あ〜、支柱を握ればいいのか」と分かった様子で、自分の左手で支柱をしっかりと握り締め、脚に上がりました。 

しばらく見ていると、もう充分に一人で支柱を持ってバランスがとれてきました。 そこでお母さんに「少しずつR子ちゃんとつないでいる手を、緩めてあげて みたら?」と、小さな声で言いました。すると数回後に、もう立派にお母さんの手離しで、一人でやれるようになりました。

「R子ちゃん、すごい!できたね!」と、 拍手をすると、とっても誇らし気で嬉しそうです。そしてまた、何回も何回も、飽 きることなくやり続けています。 

実は、私はR子ちゃんがこの動作を繰り返し始めた時、少し離れたところから、 一回ずつ「ドッコイ」(上がる時) 「ショ」(降りる時)と、やわらかな声でR子ち ゃんの動きに合わせて声かけをしていました。もちろん動きをよーく見ながら、動きやすい速さと声の強弱を加減しながらです。ちょっと危くなりそうな足取りになると、声の調子を変え、動きやすくなるよう声で支えるのです。そして1回成功する度に、「R子ちゃん、すごいね!できたね!パチパチ…(拍手)」すると、R子ちゃんも一緒に、パチパチ…と、笑顔で拍手します。これを繰り返す度 に、R子ちゃんの顔はイキイキと喜びにあふれていきます。 

でも、傍らにいるR子ちゃんのお母さんからは、ほとんど声が出てきません。 「日頃、あまりこんな風に声かけしたり、拍手したりしないの?」と尋ねると、 「そうです」との答え。そこで私は、「赤ちゃんが新しいことをできる様になった らしっかり誉めてあげてね。赤ちゃんは大好きなお母さんに誉めてもらうことが、 一番嬉しいのよ」と説明しました。 

子どもは、1、何度も何度も同じ動作を繰り返すことで、神経回路 (ニューロン)をつないでいく。 2 、失敗しながらも、どうしたらいいのか自分で工夫していく中で、 成功する毎に、ニューロンは強い結びつきになっていく。 3、 そのような動作学習などの時、体が動きやすいような他からの声かけや、自分で自ら声を出すことで、大脳皮質からの体への余計なコントロールが取れ、動きをスムーズにすることに効果がある。

母親が赤ちゃんの心と体と一緒になって応援してくれ、その成功を喜んでくれること。それが赤ちゃんの大きな喜びになり、次の 新し行動へ挑戦していくエネルギーとなっていく。 

でも、そういう声かけにあまり慣れていないお母さんには、ちょっと最初は抵抗 があるかも知れません。

そこで、「ホラ、赤ちゃんがウンチする時、『ウーン』、オ シッコする時『シー、シー』と言うでしょ?それと同じ要領で、他の動作の時にもちょっと声をかけてみて」「もちろん、声かけは赤ちゃんの成長のためにはとっても大切なこと。日頃、子育てであまり他の人とも話す機会が少なく、昼間は赤 ちゃんと二人きりというママは、自分でも気付かない間に息をつめている事が多い の。そんなママが、赤ちゃんと一緒に積極的に、暖かくやわらかい声を出して楽しんでいくと、自分も元気になっていくよ」と、アドバイスさせていただきました。 

皆さんも、《声かけの効果》に興味をお持ちになり、まずは自分の心と体や動き をスムーズにしてくれるのは、《どんな声かけかな?と、工夫してみて下さい。 きっと色々な発見があると思いますよ。 




「チキンちゃん」と呼ばれる赤ちゃん

両手を後方に引いて、前に出さない赤ちゃんを「チキンちゃん」と呼んで います。このような赤ちゃんの話をチラホラと耳にするようになりました。ウデとムネの間を「ウムネ」と野口体操の野口三千三先生は言っていますが、 「チキンちゃん」と呼ばれる赤ちゃんはウムネが固いので、手が前に出ないの です。

このような赤ちゃんはうつ伏せを極端に嫌います。手で前を支えられな いので苦しいのです。手が出ないので 10 ヶ月になっても寝返りやハイハイは もちろん出来ません。どうしてこんなことになったのでしょうか?

原因の一つに正しくない前抱っこがあります。そういえば最近、前抱っこが目に付いて、昔のように背中におんぶしているお母さんを見なくなりましたね。
前抱っこによく利用されるものとして、背板の硬い抱っこ紐やスリングがあります。

スリングはアメリカから入ってきた、赤ちゃんの前抱き用の袋です。スリングは、別名カンガルーの袋と言われています。赤ちゃんが子宮の中にいるような感じで大事にしよう、という考えです。 赤ちゃんの脊髄をCの字型に保ち、保育できるので、首が据わるまで大切な姿勢が保てるものです。しかし意外と正しい使い方が伝わっていないようです。

必要なことはスリングと並行 して、赤ちゃんをうつ伏せにして遊ばせ、首を持ち上げたり、両手や両足で体重を支えたりする動きをさせることなのです。
首が据わっていない0~4ヶ月くらいまでは、特に赤ちゃんをヤモリのよう に体を母親に沿わせる必要があります。また、首がダラーンとスリングの外に出ることが無いように布の中で保護する必要があります。

すなわち、股関節の動きを制限しないように赤ちゃんの体をリラックスさせることと、背骨をCの字型に保てるように、両手ないしは片手を添えることが大事です。ところがスリン グを使うことで、一時的にせよお母さんの両手が 空く、と考えることが問題の始まりです。

と言いますのは、首が据わり、赤ちゃんが大きくなると、 お母さんは片手に携帯電話、もう一方に荷物をぶ ら下げてスリングをずらして、お腹の前で赤ちゃ んを支えたりする人もいます。こうなると、赤ちゃんはいつもお母さんのお腹に押し付けられている ので、手が前に出せなくなり、ウムネが固くなっ てしまいます。

そんな赤ちゃんをほぐした時のことです。お母 さんに抱っこしてもらったまま、ほぐしました。 この赤ちゃんを仮にF子ちゃんとしましょう。F子ちゃんの腕を前に出させようとしましたが、出す事を嫌がります。ウムネが固まっているからです。そこでそっと触れた手で、背中から腕へ、腕から手へと流します。F子ちゃんの腕が内から動こうとする方向を援助する流し方です。そうすると、知らず知らず のうちに手が前に出るようになります。

次に、お母さんが膝の前でF子ちゃんと向かい合うように床に足をつかせ、 体を支えます。F子ちゃんはお母さんの膝の上に倒れてきて、モゾモゾと動きます。私はF子ちゃんの腰に手を添えて、モゾモゾ動きがしやすいように手助けをします。あくまでも本人がやっている気分にさせることが大切です。

F子 ちゃんは「アーアー」と声を出しながら動きますが、私も同じ声を出すようにして、一緒に体に手を添えたまま遊びます。同じ声を出してもらうと、F子ち ゃんはさらに、体の内部を動かすようになるのです。

やがてお母さんの膝から降りて、寝返りを打つようになりました。「すご~ い!ひとりで出来たね。すごいね!」と声をかけながら、両手でパチパチと手を叩き、バンザイをするように手を添えました。それを何回か繰り返すうちに、 F子ちゃんは、一人で拍手をし始めるようになりました。

赤ちゃんは体に不自由を感じると、様々に蠢きながら楽な姿勢を得ようとします。赤ちゃんをほぐす時は、このような動きを保障しなければなりません。 そのためには動きを促すことも必要ですが、動き出すまで待つことも大事です。 又お母さんもどなたかの手を借りてほぐしてもらえるようになると、子育 ての不安もずいぶんと軽くなりますね。




赤ちゃんのサインを内感能力でキャッチしましょう

7ヶ月になる女の子を抱いて、若いお母さんがやって来ました。赤ちゃんの名前はI ちゃんと言います。賢そうなキリッとした顔立ちの赤ちゃんです。 少し一緒に遊びましたが、こちらのやることをジッと見つめて、目を離しません。

このような赤ちゃんは、好奇心いっぱ いで次から次へと真似したり、考えたりしていますから、物の名前や行うことの意味を、その都度声を出して伝えることが大切です。例えば「これはスプーンよ」とか、くまのぬいぐるみを持ってたら手を小さく振りながら「くまさんがバイバイしているよ」
など、いっぱい語りかけてほしいのです。

どのお母さんも赤ちゃんの指を持って、目や口へ近づけて「おめめ、おくち」と何度も教えますね。赤ちゃんに物には名前があることや、客観的に物を認識することを伝えているのです。

こういうことは、マメに行えば行うほど、 赤ちゃんの頭の発達には大きな成果があります。ヘレン・ケラーは女教師から ポンプから溢れ出す水を手に触れさせられることによって、「水」を客観的認識し、そのものに「water」という名前があることを知りました。 感動的な場面です。

赤ちゃんとお母さんは、そういう場面を、毎日毎日積み上げ ているのです。五感をフル回転して、学習して初めて身についていくわけです。

Iちゃんは、さかんに舌打ちをして、音を楽しみ始めました。私は同じように舌を動かして真似をしました。Iちゃんは私の口を熱心に見つめながら、 次々と音を変えていきました。赤ちゃんが自然に出す声や舌打ちなどを、周りの大人が同じことをすると、赤ちゃんは客観的に発音を意識するようになりま す。このような積み上げによって、赤ちゃんは言葉を獲得するのです。

「離乳食を始めたいのですが、いつ頃からがいいでしょうか」とIちゃんの お母さんが質問しました。厚生省では生後5~6ヶ月になれば、と指示しているそうです。これも一つの目安ですが、外の条件だけで判断すると、その絶妙なタイミングをのがすことになります。

ボディートーク会員の助産師さんによ ると、ヨダレが滝のように流れ出るようになったり、食事の時に大人のお箸の動きを恨めしそうに見たりするようになれば、離乳食を始めればいい、ということでした。

I ちゃんは、同じ時期の赤ちゃんと比べるとハイハイのスピードも早く、つ かまり立ちへの動きもしっかりし、あっという間に立ちます。小さな歯が、歯ぐきからチラッと顔を見せています。こうなると本能的に物をしっかりと噛み たくなっているのです。いっぱい噛むことによって、歯も歯ぐきも丈夫になる のです。離乳食を始める時期にもう来ているようです。

「快食・快眠・快便」は。赤ちゃんに限らず全ての人の健康のバロメーター ですが、赤ちゃんの排尿、排便について、最近、少々気になることがあります。 私が子どもの頃は、和式トイレしかありませんでしたから、幼児にオシッコ やウンコをさせる時には、大人が膝の間に抱いて、しゃがみ込んで声を掛け、 尿意や便意を促しましたが…、最近の赤ちゃんは小さなオマルに座らせられて、 出るまで待つという方法を強いられているようです。

子ども達が大好きな童話「モチモチの木」の中でも、夜中に一人ではオシッコに行けない五歳になる豆太を、おじいさんが抱きかかえてオシッコをさせる場面がありますおじいさんが「ああ、いい夜だ。星に手が届くようだ。奥山じゃア、シカやクマめらが、鼻ちょうちんだして、寝っこけ てやがるべ、それ、シィーッ」と豆太に声をかけて、オシッコをさせます。ほ のぼのとした、暖かい心の交流が感じられます。

私の子どもの頃も、母親が 「シーッ、コイコイ」と言いながら、させてくれました。その時は母親も下腹部を収縮させていて、それが子どもの体に伝わるのです。 大好きな母親の体と声のぬくもりが直接伝わり、気持ちよく排尿できた喜びが、 親子の絆を強くしていきます。

育児の中での赤ちゃんの様々なサインを、母親や周囲がどう受け止めていけばいいのでしょう。それには、赤ちゃんと同じ動き、同じ姿勢、同じ表情を、 同じ声(息)で真似してみて下さい。きっと赤ちゃんの内側が少しず つ感じられるようになっていくと思いますよ。