心がしみていく暖かい息
●ただいま~ピョンちゃん
暖かな息、穏やかな声は、私達に安らぎを与えてくれます。「ただいま~」 と言うと「お帰りなさ~い」と迎えてくれる。その声に何だかホッとして一日 の疲れが取れていく感じがしますね。
幼い頃からそういう環境の中で育ってきた私は、大学生になり一人下宿を始めた時、誰もいない真っ暗なアパートに帰 るのが淋しくて、あることを思いつきました。玄関に小さな椅子を置き、そこに可愛いウサギのぬいぐるみを座らせ、玄関の灯りはつけたままにして出かけ ることにしたのです。
帰ってきてドアを開けて、ウサちゃんに「ただいま、ピ ョンちゃん」と声をかけます。その声が部屋中に響いて、それまでの冷んやりとした空気がふんわり暖かくなっていくようでした。
●「クソババ!」と叫ぶH君
「
暖かな息が漂っている家で育つ子どもは、すこやかに成長していきますよ」と増田先生がよく言っていらっしゃいますが、こんな話がありました。小学1年生のH君は、おばあちゃんが「お帰りなさい」と声をかけると「クソバ バ!」と大声で叫びます。
そしてランドセルを投げ捨て、着ていた服もソック スも一気に脱ぎ、天井に放りあげ、3才年下の弟にケンカをしかけて暴れ まわるという毎日でした。けれど学校ではいたって優等生です。彼のあまりの激しさに「どうにかならないんでしょうか?私にばっかり暴言を吐くんですよ」と相談されました。
彼のお母さんは、昼間は外でお仕事。子どものしつけにはかなり厳しい方だとか。「いいですねぇ~、元気が良くて。おばあちゃん には甘えていれるから、そういう行動が出来るんですよ」と私はニコニコしな がら答えて、彼の心の在り方を説明しました。
●心にも便秘があります。
便秘になると苦しいものです。大人でも家の外で緊張が続くと、なかなかウンコが出にくくなりますね。でも家に帰るとウンコがようやく出た。こんな経験は誰しもお持ちのはずです。
H君は学校ではイヤなことが あっても決して顔には出さない。先生の言うこともよく聞けて、しっかり自己 コントロールできる【おりこうちゃん》なのです。だからこそ家に帰ってホッとすると、今まで学校で我慢し、押し込めていた様々な感情が思いっきり発散し始めるのです。
これは《心や体のバランスを保つ》ための大切な行動です。 それを理解せずにむやみに叱りつけたり注意しすぎると、自分の欲求、感情の捌け口がなくなり、《心の便秘》状態になるのです。
●心も体もホッと安心できる場
幼児期、少年期、そして思春期までは、子どもは自由自在に思いっきり全身を動かして遊ぶ時間や空間が必要です。そのことで心も体も頭もすこやかに成 長していくのです。
特に男の子が一日中じっと同じ姿勢で机の前に座ってお勉 強することは、不健康きわまりない状態なのです。「H君は幸せですね。おばあちゃんがいて下さって。心も体も裸になれるところがあるんですもの。ご心配なさらなくても、彼はまともに成長をしていますよ」「ええ、学校でも母親の前でも、ずいぶん我慢しているのでしょうね」と、おばあちゃんの表情が優 しく変わっていかれました。
それからは彼の暴言が激しくなってくると、「ああ、今日は学校で何かあったに違いない」と考えられるようになられ、「今日のご飯は何が良いかな?あの子の好きなものにしようかね~」などと、おじいちゃんも一緒になって色々工夫されていくことが楽しみになられたようです。
●心にしみる暖かい息
核家族の共働きの両親に育てられている子ども達は、こういうわけにはいきません。でも工夫することによって《暖かい息》の場は、いくらでも創ってい けるような気がします。私の母も小学校の先生でしたので、幼い頃は早朝に出勤し、帰宅は夜遅くという生活でした。
それでも朝起きて筆箱を開けると、鉛筆がきれいに削って、きちんと並べて入れてありました。それは唯一《母は私 のことをいつもちゃんと見つめていてくれているんだという証》でした。とても嬉しくて、その世界一の鉛筆を握りしめ、私は勉強することが大好きな子どもへと育っていきました。
忙しい中にもそういう工夫をよくしてくれた母へ感 謝しています。みなさんの深く心にしみていく《暖かい息》づくりのお話も、 是非お聞きしたいと思っています。お知らせをお待ちしています。