ボディートークコラム

そっと手を添えてみると

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美しい動きとは、まっ白な半紙を前にフーッと息を深くして、たっぷりと墨をつけた筆先をそっと下ろし、想いをしたためる。穏やかなその姿からは、物静かな美しさが漂ってきます。筆を運んでいく右手はもちろんですが、半紙にそっと添えた左手も右手の変化に応じて、微調整を繰り返し文字を完成していきます。

ベンやワープロを使う時には、決して見ることのできないこの繊細な動き。 気がつくと、筋肉と神経を細やかにこなす所作が、今、日本人の生活から次第 に少なくなろうとしています。

● 木と紙と土の文化

鉄や石の文化と異なって、木と紙と土に包まれ創られていった日本文化。壊れやすいから、破れやすいからこそ、そっと大切に、丁寧にものを扱うことが必然だったのでしょうね。

四季がある日本は、温度、湿度が季節ごとに変化していく。それに適応して食べ物、衣服、住居が工夫され、私たちの心や体も、それらのものとの触れ合いの中で育まれていったのです。物にやさしく触れること が、毎日の生活の中にふんだんにあったのです、

唇に直接触れるものだからと工夫された、木製や陶製の食器。涼しさや暖かさを上手く加減できるような着物の工夫、素足での動き、感触が工夫された履き物、畳など…。でも今は、スプーン、コップを用い、洋服を育て、畳、障子、襖などない家で住む生活が増え、正座して両手を添えながら、そ~っと静かに戸を開ける所作など、普通の生活の中からは消えかけていっています。

≪揃える、添える≫と心と体が変わる? 熊本の6月のBTリーダーの研修会に、「みなさん、おはようございます」 さわやかな朝の挨拶から始まりました。

「今日は、挨拶の時の手の置き方に ついて考えてみましょう」「両手をこすり合わせ、暖かくした後に、両手の指を拡げて太ももの上に置いた時と、五本の指をそっと寄せてふんわりと置いた 時、どのように心と体に変化があるか、感じてみましょう」

目を閉じて実験してみました。「どうですか?」とたずねると、「指を揃えておくと、なんだか 指を拡げた時より、やさしく穏やかなあたたかさが体に伝わってくるみたい」とか、「自分が自分をとても大切にしている感じがする」などの答えが出ました。

昼からのマタニティの教室では、「ジーンズをはいて両膝をくっつけた時と、スカートをはいてくっつけた時では、どのような感覚が異なると思いますか?」の質問に、「スカートの時の方が直接太もものぬくもりが伝わりやすくなり、ホッとできる気 がする」などの答えが返ってきました。

(実は着物を着ると、両膝はいつも閉じている状態になり、着た人の心と体は包まれた感覚になり、ほっこりなれる のです。)

このように私たち日本人の生活には、≪息を内息にし、自分の内に気持ちを向けて、心や体を整えたり、まとめたり、温めたりできる≫所作が多かったことが分かります。

● 大切なものには手を添えてみよう。

赤ちゃんの頃から、お母さんがこういうことにちょっと感心を持つだけでも、赤ちゃんの心の育ち方が変わってくるように思えるので、赤ちゃんがおっぱいを飲んでいる時、さり気なく赤ちゃんの手を、おっぱいに持っていってあげましょう。自然に大切なおっぱいを感じていけるようになります。

哺乳瓶になったり離乳食を食べる時も、ただ口をポカーンとあけて、両手をダ ランと下げ、与えられる食べ物を待つだけの子どもでなく、≪自分の生命をつなぐ大切なものは、自ら積極的に手をばし、大事に感謝しながら、両手を添える、いただく、触れるという感覚≫が自然に身につくようになることでしよう。

大人になった私たちも、新鮮な気持でもう一度手を添える、揃えるなどを楽しんでみてはいかがでしょうか。

あなたの中に眠っていた、ほんわかした感性が目覚めてくるかもしれませんよ。
では、まずは両方の手のひらの指をそっと揃え、『水のこころ』の詩を読んでみて下さい。

水はつかめません  水はすくうのです

    指をぴったりつけて  そぉっと大切に

 水はつかめません  水は包むのです

    二つの手の中に  そぉっと大切に

 水のこころも  ひとのこころも

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