K君は、生まれて1年と2ヶ月です。お母さんと一緒にマタニティ・子育て教室 に通っています。「Kは、今日元気ですが、一週間前に 39度の高熱で突発性発疹が出たんです」というお母さんの報告。K君を見ると、両手をあげて ニコニコ顔で歩いています。
「エーッ! K君歩けるよ うになったの!! すごいねぇ~!!」と、私は声をかけました。だって一ヶ月前は、伝い歩きがやっとでしたから。でも10 歩ぐらい歩くとヨロヨロとなり、 片膝付きになったり、ハターンと尻もちをついてしまいます。でも、そんなこと平気だよっ、とすまし顔、 「すごいねぇー。すごい!すごい!歩けるようになったんだよねぇー」と拍手をすると、自分もパチパチと立ったままで、嬉しそうに一緒に拍手をします。
立ちたいのに自分では立てず、 いつも悔しさをいっぱい溜め込んでいた、一、二ヶ月前の表情とは大違いで誇らし気です。 「ちょっと背中をみせてね」とK君にふれてみました。この一ヶ月でずいぶんしっかりと太い骨になっています。
重い頭を支えて立つというだけでも、背骨には大 きな負担がかかります。ましてや、生まれて今までずっと背骨はほぼ横向き状態で抱っこされたり、四ツン這いで過ごしてきたのに、今度は一気に重力の負担がグンとかかる立位姿勢になるのですから。しかも立つだけでなく、歩いていくという重心移動動作になったのです。更にレベルアップの複雑な身体機能の調整が必要となったわけです。
K君の背骨は、重い頭の揺れを最小限に止めるために、頚椎の2~7番をギュッと固め、両腕の重さでバランスをとるため、両肩は力が入って、 エーッ!と驚くほどガチガチです。
また、腰椎の 3・4番、仙骨も、上体を支える為にとても固くなっていました。でもこれは、背骨をS字湾曲に変化させていく為には、どうしても通らなければならない過程なのです。筋肉をこんなに固め、背骨もギュッと上から押さえられた状態では、確かに高熱は出ると思えます。
大人の体で例えるならば、ウエイトリフティングで重いウェイトを持ち上げたまま支え、歩いているような状態です。歩き始めたばかりのK君も、それに似た体になっていると考えられます。
筋肉は強度の収縮状態が長く続くと固くなりすぎて、もたなくなるので熱を出して筋肉をあたため、緩めて体を守っていると思われます。また高熱になると、体内にあった異物が汗とともに体外へ出やすくなり、それが発疹という形になったのかも知れません。
「突発性発疹の出る前頃から、ちょっとでもKの傍を離れるだけですぐに泣くようになったり、怖がるようになりました。どうしてですか」とお母さんの質問がありました。「それはきっと、K君が仙骨を固 めているからだと思いますよ」(ボディートーク では、怖いことがあると、カメが首やシッポをすくめるように、人間も同じようにしっぽを巻く状 態になると考えています)と言いながら、K君の首と背骨と仙骨をほぐし始めました。
すると、ものすごい勢いで全身をもがくようにバタバタさせ ながら、大声をあげて泣き出しました。「歩き始めだからね、こんなに固くなったんだよ。固くなっ たから怖い心になったんだよ〜。もう大丈夫よ」と、K君に声をかけて《体ほぐし・心ほぐし》をしました。バタバタ動くのは、 本能的に自分でも積極的にほぐそうとしているのです。
人は生まれ、こうして一人の人間になるために懸命に立ち、全身全霊の力で歩き 始めるのですね。生命が大きく変化していく時には大きなエネルギーを内に内蔵し、 その力によってミズカラその時を越えていくのだなぁ~と、生命の健気さがK君の体から私の手に伝わってきました。
そして、それはそのまま人類が越えてきた進化の過程の姿であることをK君が、私に教えてくれた感動のひとときでした。K君、帰りは「バイ!バイ!」と、すがすがしくサヨナラしてくれました。
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