自分で自分の身を守る。これは生きとし生けるものの鉄則である。自分の身を守るためには、まず体の異常をいち早くキャッチできることが必要で、この能力を私は「内感能力」と呼んでいる。誰しもが生まれつき有している先天的内感能力は、体が固くなる程に鈍ってくる。
今、話題の慢性疲労症候群なども、内感能力がかなり低下している人に見られるようだ。心や体を固くして仕事をやり続け、もはや体を休めてみても固さがほぐれない投階に達しているのだ。
後天的内感能力とは、体の構造やシステムを知覚できる能力である。
私の娘が中学生のときに、学校で背中がキリキリと痛んだ。それで保健室へ行って「胸椎4番の左側が痛いんです」と先生に訴えた。「えっ?」と言ったきり先生は絶句だったそうだ。
胸椎4番左とは、左の肩甲骨と背骨の間の中央あたりだが、ここが痛む時はたいてい言いたいことをグッと自ら押さえ込んでいる場合である。保健の先生は知識として背骨の勉強はしていても、内感として自分の背骨の何番がどこにどのようにあるかを知覚する訓練はしていないからビックリされたわけだ。
後天的内感能力が突発事故に際してどのような効力を発揮するか、ひとつの実例を紹介しよう。毎週通っているスイミングスクールで、ある日、思わぬアクシデントに あってしまった。プールの入口は大きなガラスの扉である。構造的には保温のために二重の扉になっている。いつもは二番目の扉が開き放しになっているの で、N夫人はまさかガラスの扉が二つあるとは気が付かなかった。ところが、その日は運悪く閉めてあった。
N夫人はいつものように一番目の扉を開いて勢いよくプール室に入ったつもりが、顔から思いっきり全身、ガラスの扉にぶつけてしまったのだ。鼻や口から血が流れ始めたけれど、N夫人は腰椎に気持ち悪さを感じて、その場で「胴ぶるい」をした。
慌ててとんで来た周りの人も、一生懸命胴ぶるいをしているN夫人を見て「何しているの?」と不思議そうに尋ねた。 顔が大きく腫れたので医者に診てもらうと、鼻の骨が折れ、口の中もかなり切れていた。こんなに激しくぶつかったら必ず腰の骨が ズレているから、ということでレントゲン検査 をしたが異常が見つからない。「変だな」と医者は首をかしげていたそうだ。あの、一瞬の胴ぶるいで腰椎のズレが「あるべき所に」戻ったのだ。
ところで、ここでいう体の柔らかさとは、脚がよく開くだとか、上体を前にかがめて両手が床に着くだとかの 問題ではない。体の中身がつきたてのおモチのように柔 らかくて弾力があることをいうのである。
スポーツでは脚を開くことも必要だろうが、 健康を維持するためなら、脚は歩く程度に開けば充分である。その証拠に犬や猫は開脚運動をしていない。
肉脚 体の柔らかさを得るには自然体運動をすればいい。自然体運動とは発声と共に体を様々に揺する動きだ。
リラックスの中で体を様々に揺すると、体の内部の「あるべきものが、あるべき所に、あるべき様に、在る」という状態になる。そうすると体はおのずと健康になるように神さまは設計されているのである。
人間は他の動物よりも心や体をはるかに複雑に使って日常生活を行っているから、その分シコリやユガミも生じやすい。内感能力を研ぎ澄まして、体に異常を感じれば、すぐさま自然体運動を行って正しい状態に戻す。そうすればいつだってはつらつと活動で きるのだ。しかもこの時の自然体運動はせいぜい数秒のことなのだ。さらに人間にとって有り難いことは、後天的内感能力を開発できるということである。
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