背中は人生を物語る。去りゆく後ろ姿を見て、その人の生き方にハッと気づくことがある。表向きをどんなに取り繕っても、背中はごまかせない。心のありさまや感情が正直に表れるからだ。たとえば、怒りは背中にどのように表れるか。怒ると腹が立つ。腹が立つと言うことは、胃が硬く収縮して持ち上がることだ。レントゲン写真では、実際に胃が立ち上がったように見える。
では、胃を立ち上がらせている神経はどこからやってくるのか。実は、背中の中央、正確に言うと背骨の胸椎8番出ている。怒りの感情は、まず背中の中央を硬くさせ、その刺激を受けた神経が腹を立たせるのである。
「肩を怒らす」という表現もある。これは単に肩を持ち上げた状態ではない。もし人がヒョイと肩を上げて「怒ってるぞ!」と言ったとしても、ちっとも怖くはない。ただ、怒りのポーズを取っているだけだ。本当に怒ると、まず背中が盛り上がってくる。さらに、感情が高まると、肩もつり上がってくる。だまっていても、力が体にみなぎってくる。「肩を怒らす」とは、そのような状態を言う。
猫のケンカはその典型である猫は相手を威嚇するために牙をむき、毛を逆立てて背中を強く、高く、膨らませる。もちろん、尻尾もピンと立てている。この背中を硬直させることで、猫の胃も立っている。人間はもともと四つ足の動物であったから、怒りのシステムは、猫と同じである。猫が毛を逆立てるのは、背中が硬くなるからだが、人間の毛も同様に逆立つ。
赤ちゃんがイラだって泣きじゃくるときもそうだ。だからお母さんは抱っこして「よしよし」と言いながら、背中をさすってやる。母親のこの動作は本能的なものだ。その証拠に、世界各国共通にだれに教わることもなく、赤ちゃんの背中は上から下へなで下ろす。赤ちゃんが泣いているからといって、下から上へなで上げる親はいない。逆立っている毛をなで下ろすことによって背中を柔らかくさせ、いらだちを納めているのだ。
赤ちゃんなら、このように背中をさすってもらえるが、大人となると、なかなかそういうわけにはいかない。立った胃をどのようにして座らせるか。たいていは腹を据わらせる努力をしないで、立ったままにしているから、一度だれかに腹を立てると、まわりのもにまで八つ当たりするようになる。坊主憎けりゃ袈裟まで憎いというわけである。
ある大手企業の幹部研修で講演をしたときのことだった。背中に表れる様々なしこりの持つ意味を私が話したところ、講演後、背中をみてほしいという人達の列が出来た。その中の一人に、右脇にクッキリと小石大のしこりを持った人がいた。怒りが慢性化し、被害者意識を持ち始めると、恨みのしこりへと移行する。
「これは大変だ。奥さんに対する強い恨みが出ていますよ。」と私が言うと、それまでニコニコしていたその人の血の気がサーッと引き、突然、真顔で「いや、私には妻はおりません。」とおっしゃる。「そうですか。でも、このしこりはあなたの1番身近な人のことで出るものですが・・・」「ほう、そうするとむすこのことかなぁ」「えっ?息子さんがおありなら、奥さんはいらっしゃるでしょう」「実はお恥ずかしい話、女房に逃げられましてね。」
この人は、中学生になったばかりの息子を放って実家へ帰ってしまった奥さんに強い恨みを持ち続けていたのである。このしこりを持ち続ける限り、恨みは続く。しこりを取れば、心が穏やかになって解決へ向かう余裕が生まれる。早速、うつ伏せに寝てもらってボディートークの「背中ほぐし」で恨みのしこりを取り除いた。「おかげさまで、気持ちが楽になりました。」と、その人はホッとした様子で帰って行った。
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