膝痛の原因
実家の母から電話がありました。「膝が痛くて歩けなくなったので、病院で痛み止めの注射をしてもらったと」言います。母は八十歳 を過ぎたばかりで、まだまだ元気、と私は安心していた矢先でした。
実家へは車で二時間ほどの距離なので、すぐに飛んで行きまし た。正座ができないとのこと。膝頭を揺すると痛む。どうやら膝関節の位置にズレがあるらしい。私は、早速体ほぐしを始めました。
膝が痛いからといって膝ばかりみていてもダメです。人間の体は骨も肉もいっしょにしてひとつにつながっていますから、 節を正しい位臓に戻すにはまず全身をほぐす必要があります。否、 むしろ膝関節のズレの元凶は 体の別の部分にあることが多いのです。
例えば、背中の片側にしこりがあって、腰をゆがめて歩いたとしましょう。こういう場合は微妙な傾きなので本人は気が付きません。しかし傾いた側の膝には負担がかかり続けます。
背中のシコリある時に、疲労も加わり重さに耐えかねた膝関節が、ズレるのです。そのズレを戻すには背中のシコリにまで逆のぼらなければなりません。
案の上、母の背中には脊椎8番右に強いしこりがありました。芸術家である父親の世話にほとほと手を焼いて、怒りを溜め込んでいるのです。このシコリが腰を引っ張り、仙腸関節をズラし、股関節を歪ませ、膝関節に無理な角度の負担を与えていたのです。
何故そのような判断をしたかというと、仰向けに寝てもらって左右の足の長さを調べたからです。 すると右足が二センチほど短い。
調べ方はこうです。まず寝ている体を真っ直ぐにします。そして足元から見て、鼻、ノドボトケ、 胸の中央、恥骨を一直線上にそろえた延長線上で足の左右の顔を合わせてみます。腰の出っ張った部分がピタッと合うのが普通ですが、腰や膝にズレがあると出っ張った部分は、ズレてしまいます。
その、ズレた距離をもって何センチのズレと私は言っていますが、これは私独自の見方であって医学や整体ではどのように表現しているかは知りません。
母の背中をほぐして怒りを静めたところで“膝たおし”を行いました。すると足の長さは、きれいにそろって膝が軽く感じられるようになりました。正座も楽に出来て、母は「何ともなくなった」 と部屋の中をうれしそうに歩き廻りました。
膝たおしは、橋本敬三氏の操体法にヒントを得た方法ですが、ボディートークでは発声を加味します。更にやってあげる人が、自らの腰も調整できるように動くということを大事なポイントとしています。
膝たおしは、ウケテが膝を立てた状態を自ら外へ倒そうとするのを、シテが一旦手で止めて、膝に力がこもった途端、離すという方法です。膝が倒れた時に、膝関節や腸の内部が微妙に揺れて体が調整されます。
この際大切なことは、シテが手を離した後の、ウケテの膝のリラックスです。ウケテが膝に力を入れてシテの手を押すのは、決して押す力を高めるためではありません。膝が倒れた時のリラックスの揺れをより大きくしないように、一旦押し合いをするだけのことなのです。
ウケテの力がグッとこもった期間にシテは肩すかしのようにヒョイと手を離しますが、その瞬間は声を聞いていても判断できます。膝を押すウケテの中がグンと強くなったところが、手を離すタイミングです。
膝たおしのテクニックが進みますと、シテはウケテの力をうまく 受け止めて、自分の腰の調整ができるようになります。即ちウケテが押してくる膝を手で受け止め、その時、自分の立て膝で支えると、 シテにも一旦、力がこもります。そうして押さえている手を離した拍子に、自分の肩の力もフッと抜くのです。山陽関節が微妙に揺れて、膝関節が調整されるのを感じるでしょう。
相手をほぐしながら、ミズカラもほぐれる方法がボディートークの体ほぐしです。
<膝たおしの方法 >
① ウケテは仰向けに寝ころんで、一方の膝を立てます。
② ウケテの足元に座り、立った際に片手を当て、その手の肘を自分の立て膝で 支えます。
③ ウケチは「ウーン」と声を出しながら、立てた膝を倒そうとします。
④ シテはウケテの膝に力がこもったと感じた瞬間、手を離します。
⑤ ウケテの膝はパタンと外に倒れて、その波が膝関節や腰に波となって伝わるでしょう。
⑥ 片膝につき数回づつ行なえば足の長さはたいてい元に 戻りますし、また膝痛も軽減していきます。