心身一如の 体ほぐし
横浜へ月に一度、日曜日に子供ミュージカルの指導に出掛けます。会場は小学校の体育館です。昼過ぎには多勢の子供たちが所狭しとボール遊びに夢中です。午前の練習を終えて、お弁当もそこそこに走りまわっているのです。
「さあ、集合始めるよーっ」私が一声掛けると子供 たちは跳びはねながら集まってきます。ミュージカルの練習が楽しくて仕方ないのです。ところが体育館の片端で休憩していた大人のリーダーたちの腰が重い。こちらへ来ようとする意思はあるものの体の方が動こうとしていません。
それもそのはず、もともと一週間の仕事疲れが蓄積している上に、朝九時過ぎから会場準備をし、そのあと二時間たっぷり子供たちと共に歌や踊りに精を出したのですから、二十代・三十代の彼らにも結構きつい。
そこで午後の練習は「体ほぐし」から始めます。マッ トを敷きつめて寝ころべるようにし、大人も子供も一緒になって二人で一組をつくりま す。一方の人が手を枕にしてうつ伏せに寝ます。他方の人が脇に座って両手を寝ている人の背骨に当てます。柔らかく連続して背骨を揺するのですが、「アー」と軽く、小さく声を出します。
背骨には自律神経が通っています。自律神経とは御存知のように、意志に関係なく反応し、肺や心臓、胃や腸などを働かせる大切な神経です。その生命活動を維持する自律神経が、背骨を固めていてはスッキリ作用してくれません。
背骨の可動性はその周辺の筋肉と関係があります。即ち周りの筋肉を硬くすると背骨が動かなくなるのです。周りの筋肉の固さは運動疲労によることもありますが、主として心の働きに起因します。
ボディートークで申しています「借金のしこり=頚椎7番」
「肩の荷の重さ=胸椎1・2番」「失恋のしこり=胸椎3番」「気遣いのしこり=胸椎 5・6・7番」「怒りのしこり=胸椎8番」「後悔のしこり~胸椎9番」等々です。
背骨と、その周辺の筋肉を揺すっていますと、背骨に可動性が出てきます。そうすると、たちまち元気が蘇ってきて「さあ、やろう!」という気持ちになるから不思議です。その意味で「体ほぐし」は体の固さをとることによって心を解放する「心身一如の体ほぐし」なのです。
疲れ切っていた大人のリーダー達も、ほんの十分間ほどの「心身一如の体ほぐし」で、 すっかり元気を取り戻し、午後の練習を楽しむことが出来るのです。そしてその夜はグッスリ眠って、翌日からの仕事への活力を得るのだそうです。
「心身一如の体ほぐし」をどのように考案し、ボディートークでいつ始めたのか、私の記憶も定かではありません。確実に言えることは、十年前に協会が発足した頃はまだその方法はなかったということです。そして誰に教わったというものではなく、個人 レッスンの中で必然的に生まれてきたということです。
今では「心身一如の体ほぐし」はボディートークの四分野(自然体法・人間関係法・自由表現法・発声呼吸法 )に加えてボディーメッセー ジやボーカル・ダンスと並ぶ、大変重要なプログラムです。今回よりシリーズで、その原理と方法、効用に ついて述べようと思います。
1.背中ほぐし で元気回復
アルプスの風、背骨の並びをアルプス山脈と見立てます。そのアルプスの麓から風が吹き抜けます。山の頂きへ、そして頂きからあちらの麓へです。風は再びあちらからこちらへと戻ってきます。 風を起こすのは手の平です。手の平の付け根を背骨の脇へ、ソッと降ろします。
両手を相手の背骨にあずけるように 乗せますと、乗せられた人は、手の重みは感じるのに、押さえつけられた不快感はありません。 手の平の付け根が背骨を越えて行ったり来たりすることによって、背骨の周りの筋肉がほぐれ、 背骨のひとつひとつが緩んで可動性が出てきま す。この方法が「アルプスの風」です。