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体の内なる声を聞く

*食卓椅子を選ぶ時も

我が家の食卓を買い換えた時の話である。妻と共に家具 店をまわったのだが、幸いテーブルはすぐに気に入りのが見つかった。しかし椅子がなかなかにむずかしい。それというのも、どれもこれも座り心地がもうひとつシックリこないのだ。

椅子を選ぶのに最優先すべきは外観のデザインや価格で はない。なによりも大切なことは、長時間座っていても腰 を痛めないということである。更に理想を言うなら、椅子に座っていることによって姿勢が思わず正しくなる、 というのがベストである。家具は一度買えば十年や二十年は使うものだし、まして椅子は直接、体に影響を与えるものである。決定 には慎重にならざるを得ない。

座り心地がいいか悪いかを、私と妻とはボディートー クで確かめた。即ち、ともかく座ってみて自分の仙腸関節に具合はどうかと尋ねてみるのである。仙腸関節にピリッと痛みが走れば、その椅子はよくない。座り続けると腰骨を歪めるからである。
この際の痛みとは、本当に微細な感覚である。体の内に神経を集中しなければ、普通には全く気付かないような微細なサインである。そしてこれを確かめるには椅子に二十秒も座れば充分に判断できる。
因みに仙腸関節とは、骨盤にある左右一対の関節である。骨盤はご存知の ように背骨からの続きである仙骨と、下腹部をとり囲むような一対の腸骨とから成っているこの仙骨と腸骨とを結ぶのが仙腸関節である。

仙腸関節は微妙に開いたり閉じたりして自律神経を調整している。例えば極度の精神 的緊張が続いて夜も眠れないような人は、交感神経が強く働いていて仙腸関節がカッチリと締まっている。締まっている限り神経は休まらないから、まずこの部分をほぐす必要がある。
反対に、仙腸関節の開きっぱなしの人は副交感神経の方が強く働いているので体が緩んでいる。だから眠気がとれなかったり、体がまとまらなくてダラーッとしている。こ のような場合は、仙腸関節を引き締める自然体運動をすれば体もシャキッとしてくる。

食卓のいす選ぶときもこのような内感は、訓練によって得る後天的な能力 である。即ち「後天的内感能力」とは、このように 「体の内なる声を聴く」能力である。自分の行動の仕方や在り方が、それでいいのか悪いのか、自らの体に問うのである。そして体の声に従って動けば体を歪めるようなことはない。

車を運転する人がたいてい経験することだが、狭い車内で上着を脱いだために肩の筋を痛めた、ということはないだろうか。或いはバックしようとして無理に顔だけ振り返ったために首筋 を痛めた、ということはないだろうか。そういう場合も本当は「内感」によって体の内側の体勢にふさわしい状態になるように、 ゆっくりとタイミングよく動くべきだったのだ。そうすれば筋違いになったりはしないものだ。

話を椅子に戻そう。その日には良いものが見つからなかったので、妻と私とで 別々に、外出した折りに捜すことにした。
その後一ヶ月余り、試した椅子の数は百近くになったのではないだろうか。私は遂に決定版を見つけた。お尻の当たり具合も背のもたれ具合もスッキリしていて、デザインも美しく、座ると思わず背が伸びる、という素晴らしい椅子である。それだけに値段も立派であったが・・・。

喜び勇んで家へ帰ると、妻もまたすごい椅子を発見したと言う。ではまずそちらを先にと言う訳で、妻の進める椅子を見に行ってびっくりした。店は別であったが、椅子はまぎれもなく私の見つけたものと同じである。やはり妻も座ってみて、これしかない と思ったそうである。私たちの仙腸関節に対する「内感」が同じ椅子へと導いたのである。私と妻の「内感」は同じだった

の体勢にふさわしい状態になるように、 がゆっくりとタイミングよく動くべきだったのだ。
そうすれば筋違いになったりはしないものだ。
腰、