タコ踊りで人に任せよう
手を下から差し出す人は、相手に対して優位に立とうとしている。あなたの面倒は私が見ましょう、という意味だ。リードは任せなさい、 という無言のメッセージでもある。
人に対してよく気のまわる世話役タイプの人は必ず下 から手を差し出す。世話をする習性が身に付いているの だ。
こういう人は何かの集まりがあっても、すぐ机やいすを準備したり、お茶を入れたりする。有り難い存在だが、時には面倒の見過ぎでわずらわしいこともある。
手を上から差し出す人は、あなたに従いましょう、という意思表示である。リードはあなたに委せましたよ、という意味である。
何でも人にやってもらって、それでいて憎めない人がいる。甘え上手で、かつて述べ た<ウムネ>の柔らかい人である。こういう人は必ず手を上から差し出す。
会合であっても、人が準備するのをニコニコして見ている。お茶を出されたら「あり がとう」とすかさず感謝の言葉が出る。それでついつい人は世話をしてしまう。
二人で手を差し出した時に、同時に下、あるいは同時に上ということもある。この場 合は差し手争いがある。勝負は一瞬にして決まるが、自分の差し手を取った方が、我欲が強かった人である。
勝負がつかなかった時はどうなるか。互いに右手が上、左手が下のように、チグハグ に握り合う。でも、このケースはめったにお目にかからない。
「タコ踊り」は手を下から取っている人が相手の両腕を振ってあげる。振ってもらう人は「アー」と柔らかく、小さな声を出し続ける。肩や肘が脱力していると、両腕は自由自在に動かせるので、まるでタコの足のように柔らかくしなやかだ。そして振ってあげている人が手を離すと、相手の両腕は重くス トンと落下する。
腕に力の入る人は、持ってあげると軽く感じる。本人が自分で腕を持ち上げているからだ。こういう人は手を離しても、腕はそのまま持ち上がっている。気遣いの激しい人は肩に力が入っている。そういう人の両腕を振ってあげると、自分で腕を動かしてしまう。本人はそんなつもりはないのに、無意識の中で、相手に悪いと思って自分で動かしてしまうのだ。
一事が万事、その調子だから、人の中で緊張し続け、 家に帰るとドッと疲労感が押し寄せてくる。「タコ踊 り」で自分の習性に気付き、脱力ができるようになる と、人に気持ちよく身を委ねることができるようになる。
一人に仕事を頼んでおきながら、任せきることができなくて、始終イライラとその進行状況を気にしている人がいる。そういう人も肩に力が入っている。
ところが「タコ踊り」で脱力の感覚がわかってくると、人に仕事を任せられる心境が生まれてくる。体の感覚は精神構造でもあるのだ。
さらに肘に力の入る人は意地っ張りである。頑固一徹、自分の主張を曲げない人は 腕を振ってあげようにも、固くて動かしようが ない。そういう人は両手をダランと降ろしてもも らって、片手ずつ、下からブラブラと振ってい く。力が抜けるほどに次第に上へ持ち上げて動かすといい。肩肘張っては、とかくこの世は住みにくい。