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もちつ もたれつの 背中ほぐし

疲労したりすると硬くウソの健康体となる。体が硬いか柔らかいか、どうやって判断するか。それは お餅の柔らかさを調べるのと同じこと、さわってみればわかる。さわって固ければ硬い体。さわって柔らかければ柔らかい体である。

人間でもっとも軟らかい体は生まれたば かりの赤ん坊だ。つきたてのお餅みたいにホカホカとあったかい。反対に、もっとも硬いのは死後、数時間たっ て硬直した体である。ゾッとするほど冷たくて、まるで永の塊のようだ。

本来、人間の体は生きている限り、他の哺乳動物と同様 にしなやかで軟らかいものである。その体が緊張したり、疲労したりすると硬くなる。心の悩みや苦労あるいはショックを受けて背中がたちまちしこったり、ゆがんだりした経験は誰もが持っているはずだ。

たしかに犬や猫も緊張や疲労から体を硬くするが、彼らはその度にノビをしたり胴ぶるいをする。自らこわばりをほぐし、ちょっと休んですぐに元 通りの元気な体に戻してしまうのだ。

このように、疲れてもすぐに元の軟らかい体に戻るのが「自然体」である。コンニャクのように柔らかくしかも弾力があるから、別名「コンニャク体」ともいう。ちなみに、体は軟らかければそれだけで良いというものではない。張りもなくてはならない。 気力が充実していれば張りがあるものだが、気力が萎えるとフニャフニャになる。私は このような体を「トウフ体」と呼んでいる。

さて、忙しい日々を自然体で過ごすことができれば理想的だが、現代の文明社会では 過度の緊張を連続して強いられるために、体が自然体に戻らなくなってしまう人が増えてきた。このような人は慢性的な筋肉の収縮状態にあって、私はこの体を「疲労体」と名付けている。

「おれは肩こりなどしたことがない」と威張っている人がいるが、そういう人の肩をさわってみると意外にカチカチであることが多い。実はしっかりと肩が凝っているのだ。
肩こりを痛いと感じる段階をとっくに越してしまって、もう鈍感になっているだけなのだ。

子供は痛みに対して敏感である。体が軟らかいからだ。子供より少々硬くなった我々大人の体でも疲労体の初期には、肩こりや頭痛などの痛みの自覚症状はちゃんとある。 ところが体がさらに硬くなると痛みも感じなくなり、風邪などの軽い症状も出なくなるために、自分は健康だと錯覚してしまう。風邪もひかない体というのは実は鈍い体なのだ。

疲労体でありながら、一見元気そうに見えるこのタイプの人は、責任感が人一倍強 かったり、自ら叱咤激励して気力だけで身を保っていたりする人だ。過度の疲労から体がコチコチになっているにもかかわらず、自らのガンバリだけで押し通しているので、 「ガンバリ体」と名付けた。そしてこのガンバリ体こそ「ウソの健康体」なのである。

働き盛りの企業戦士や責任の重い中間管理職、経営トップを不意に襲う、いわゆる突然死はガンバリ体から起こる。突然死が就寝中や入浴 中、あるいは食事中に多く発生するのは何故か。極度のガンバリ体で体の硬直も生命の限界点に達しているのに、かろうじて気力で保っている。その体が、自宅 に帰ってホッとした時に気持ちが緩んで体を保たせることができなくなるからだ。

ガンバリ体の人はさわればわかる。石頭や石体は突然死の可能性がある。そういう人はまず背中をほぐすことから始めよう。職場でもできる簡単な背中ほぐしは、二人で行う「背中たたき」だ。

一人が両手をダランと降ろして「アー」と低く長く発声する。もう一方の人が、その人の背骨の両側を、肩から腰へ向かって軽くトントンと叩いてあげる。声が固く響く個所がしこりの ある位置。そういう場所を念入りにたたく。た たいてもらって気持ちよくなった人は交代して お返しをしよう。持ちつ持たれつでこの世はうま くいっているのだから。